第14話 軍議、そして戦争へ
=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=
14 軍議、そして戦争へ
「辺境伯からの確かな情報だ。」
そう言ってセルネオ様が、机の上に地図を広げた。
「サティア王国と隣国の境界域は分かるか?」
私は首を横に振った。
セルネオ様は地図を指差ししながら説明をした。
「サティア王国は、この大陸の南半分。北西にある諸国のほぼは、友好国と属国だ。しかし、東北にある国とは冷戦状態にある。そして東北最大の国ノースルナ王国が、魔獣を操る魔法を手に入れたらしい。」
「まっ魔獣?」
ルキノはブルっと身震いをした。
小説の世界だ。魔法や人智を越える何かが存在する事は知っていた。しかし、我が身に火の粉が振りかかって来るとなると・・・リアルに恐怖を感じる。
「前回、国王陛下が行幸を称して国境線の感知魔法陣の強化を施してきたが、それも後手に回った様だ。今は辺境伯が頑張ってくれているが、このままだと二月後には・・・。」
シグルド殿下とセルネオ様と私が暗い顔を突き合わせていると、勢いよくドアが開いた。
「シグルド、この続きは私に言わして欲しい。」
そう言ったベルン殿下は、少し逞しくなった様に見えた。
「ルキノ嬢、無理を承知でお願いします。エリンシア嬢とルキノ嬢の力を貸して下さい。父王陛下は賢帝です。この危機を乗り切れば、きっと国民を守り良い政治をして下さる筈です。」
「状況は分かりましたが、直ぐにはお返事出来ません。エリンシアと相談の後、明日改めてお返事致します。」
ルキノは俯いたまま答えた。
「君達の命は必ず守る。」
そう言ったシグルドの言葉にルキノは反射的に声を荒げた。
「違います・・・。殿下は何も分かってらっしゃらない。私は敵とはいえ、人を殺める事になるかも知らない事に躊躇しているのです。エリンシアはまだ少女です。そんな重荷を背負わせたくないのです。・・・ですが、王国の危機と言う事は分かっています。明日、明日まで待って下さい。」
「分かった。今日のところは兄上、図書館へ送って行って差し上げて下さい。」
「はい。行きましょうルキノ嬢。」
ルキノはベルンのエスコートで、研究棟を後にした。
◇◇◇ ◇◇◇
エリンシアとルキノは、小高く切り立った山の上から戦場を見下ろしていた。目深にフードを被り目立たないように、少人数での行動だった。
シグルド殿下とセルネオ様が、正規軍15万の軍勢を率いて、今にも火蓋を切って落とされそうな戦場の最前線にいた。その中には、シルヴィアの姿もあった。
もう肉眼でも視界に捉える事が出来る距離に攻めよってきた、相対するのは20万頭程の魔獣達に加えて後方で10万程の軍をジェネラルが率いていた。
そしていよいよ総攻撃をかけてくる。魔獣達が妄信的に突撃してきた。
ルキノはベルン殿下の背中に手を添えて、フゥーと息を吐いた。魔力を流し込む。
ベルンは右手を上げ、迫り行く魔獣の行く手に火柱を走らせた。火を苦手とする魔獣達の勢いが止まりパニックを起こしている。魔獣の洗脳魔法が解けたのか、それとも本能的なものなのか。
動揺が見え隠れする敵陣の中、エリンシアが雷を降らす。殺傷能力は低くて良い。広範囲に降らす事が重要だ。20万頭に及ぶ魔獣全体に、感電攻撃を渡らせる。
身体を麻痺させ痛みを、恐怖を感じた魔獣達は、一斉に踵を返す。
魔獣の猛攻はそのままノースルナ王国のジェネラル軍の方へと向かった。
「スタンピード返しの術。」
ルキノは、右手の人差し指を左手で包み込み、左手の人差し指を立てて(ニン、ニン)と呟いている。
「ほら、貴方達もやってよ。ニンニン」
ルキノが二人を促すとベルン殿下が
「ニンニン」と小さな声で真似をしながら手を握っていた。
「エリンシアも早く~。」
「嫌よ。そんなみっともない格好。」
そう言ってハッと気が付いた。みっともない格好をベルン殿下もしている。
「申し訳ありません。」ベルン殿下に謝って、気不味そうに目を反らした。
そっぽを向いたエリンシアの声は、わずかに震えていた。
無理もない、戦争が起こったのだ。その真っ只中に私達は身を置いている。
少しでもリラックス出来るようにと思った(ニンニンの術)だったが、エリンシアには効果が薄かった様だ。
取り敢えずの役目を終えた私達が戦況を見守る中、魔獣達はノースルナの軍隊を蹴散らし散開し、シグルド殿下率いるサティア王国の軍隊がゆっくりと進軍する。
シグルド殿下が配備していた隠密部隊の活躍もあり、敵将とノースルナの第2王子を捕らえる事が出来た。
「ルキノ、ありがとう。」
エリンシアが唐突に意味の分からない事を言って、こちらを見て微笑んでいる。
早朝から始まったノースルナ王国侵略による防衛戦。
後に『魔獣大戦争』と呼ばれる戦い。
結果はお昼を待たずして、圧倒的な勝利により終戦した。
王都までの道のり、国民達が歓喜に賑わい花びらを降らす。シグルド殿下が手を振りながら凱旋パレードを催している最中。
シルヴィアは、シグルド殿下の隣にちゃっかり居座り微笑みながら手を振っていた。
(あんたが何したって言うのよ?!)
私達は秘かに王都に到着し、王宮に招待されていた。
王宮の美しい花が咲き誇る見事な温室の中、高級な焼き菓子とお茶を目の前にしてエリンシアが聞いた。
「ベルン殿下、本当に良いんですか?」
「勿論だ。エリンシア嬢とルキノ嬢こそ、本当にこれで良いのか?2人が協力をしてくれる条件が、功績を証さない事だなんて。2人は戦の功労者だ。王陛下より褒美を賜れるかもしれないよ?」
「私達はこれで良いのです。悪目立ちをしたく有りません。それに、全てはベルン殿下の戦略によるものですから。」
そんな会話が繰り広げられる中、王陛下が入室してこられた。
一同が立ち上がり礼をとる。
「楽にしてくれ。」
と言って王陛下もテーブルについた。
「悪目立ちとは思わんが、エリンシア嬢、ルキノ嬢。今日の功績は私が心に刻む。我が国民が無傷であれた事、国を代表して礼を申す。」
王陛下が神妙な顔で目を瞑った。
「勿体なきお言葉で御座います。」
エリンシアが立ち上がり私もそれにつられて、2人でカーテシーをした。
「君達の活躍は伏せておくが、凱旋パーティには出席してくれるだろう?息子達が友人と交流する姿を見てみたいからな。」
王陛下は、ふぁふぁふぁと独特の笑い声を残して去っていった。
「あー吃驚した。王陛下って、意外とフレンドリーなのね。」
ルキノの言ったその言葉に、ベルンとエリンシアは目を合わせて苦笑した。
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