第13話 きっとくる~
=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=
13 きっとくる〜
季節は巡り・・・エリンシア14歳、ルキノ16歳の春。
エリンシアとの出会いから1年が過ぎ
エリンシアが学園に入学してきて、私も学院生になった。
殿下方やセルネオ様との一悶着も収まり、私とエリンシアは次の作戦に移る。
お昼休み結構人気のあるスポット。学園の噴水がある園庭の周りは人で溢れている。
四阿の1番良い所を確保した。
クラブハウスサンドと紅茶をリーナが用意してくれた。
「・・・それでね、ラストダンスを踊ったの。すると次の日の朝起きると、足が固まって動かなくなっていたのよ。」
「きゃっ、怖い〜。」
「では次はルキノの番よ。」
「晴れた日曜日のお昼の出来事よ。婚約者にエスコートされてデートをしていた令嬢が背後から刺されて亡くなったの。」
「それで犯人は?」
「婚約者様とその浮気相手。令嬢は2人を怨み呪ったわ。そして2人は令嬢の呪いで流行り病にかかり苦しみもがきながら亡くなったわ。それからも令嬢の魂は幸せな恋人達を見ると、呪いをかけようと彷徨っているらしいわ。この話を聞いた人は、次の呪いのターゲットにされるのよ。」
「嫌だわ。もう日曜日にお出かけ出来ないじゃ無い。」
「大丈夫よ。この話を2人以上の人に教えて上げると令嬢は感謝して、その人を呪わなくなるから。私は、エリンシアとリーナで2人よ。良かった呪われなくて。」
昔流行った映画のオカルトルールだ。
「ルキノ、狡いわよ。」
少し震える様子のエリンシアが、とても可愛い。
素晴らしい演技だよ。
私とエリンシアは、百物語をしている。
伝え聞いた話、作った話、相手を怖がらせれば良いと言うゲームだ。・・・と言う設定で。
近くで聞き耳を立てている令嬢達が居る事も、勿論分かっている。
人物、場所の特定はしてはいけない。
そのルールのもとで、私達は時々昼休みに百物語を行った。
噂とは早いもので、今日も何人かの令嬢達が聞き耳を立てに近くに潜んでいた。
噂が学園中に回るのは、あっと言う間だった。
脚色され、歪曲され、エリンシアから聞いたという者まで現れた。
噂が広まれば広まるだけ良い。
だってこれは私達の保険。そして被害者としての証明。
噂の出所が追求されたとしても、私達は百物語をしていただけなのだから。
確かに最初の話の出所は、私とエリンシア。
2人だけの秘密のお遊び。
今も密かに聞き耳を立てている3人の令嬢が6人の令嬢に。その6人の令嬢が12人の令嬢に。鼠算だ。
勝手に盗み聞いて、勝手に噂をした令嬢が悪いのだ。
さもありなんな事を脚色して、面白い可笑しく噂する。
よくある事だ。
それと時を同じくして、エリンシアと同じ新入生が話題を呼んでいた。黒髪に黒い瞳で、癒しの魔法を使う事が出来るらしい。華奢で可愛く、令息達の噂の的になっていた。
いよいよヒロインの登場だ。
作者様の意図が透けて見えるな。
ベタなビジュアルのヒロインだ。
◇◇◇ ◇◇◇
エリンシアとお喋りを楽しみ、図書館に戻ろうとしたその時、
後ろから走ってきた令嬢が軽くぶつかってきた。
・・・?令嬢は、走ったらダメじゃなかったっけ?
確かエリンシアの貴族マナー講義で言っていた様な・・・。
(ん?今のヒロインじゃ?確か名前は・・・シルヴィアだっけ?)
テンプレ大好き作者様。黒髪、黒い瞳が特徴の背が小さくお胸が大きい。
可憐な少女シルヴィア様の登場だ。
彼女は謝りもせずに、図書館の方向へ向かって走って行った。
(失礼しちゃう。)
でも私も急がなければならない。図書館で、シグルド殿下とセルネオ様と待ち合わせをしているのだから。
エリンシアに怒られるので、走る訳にはいかない。せめてもと思い、早足で図書館へと足を進めた。
少し息を切らしながら図書館へ到着すると、
「シグルドさまぁ。」と言う甘えた声が聞こえてきた。
私の大嫌いなタイプの声だ。媚びるような、あざとい女が出す声には、転生前の頃から好きにはなれなかった。
経験上性格的に友達にはなれないタイプの人が多かったからだ。
仕方がない。私は一呼吸おいて
「お待たせして、申し訳ありません。」と、セルネオ様に礼をした。
面倒を避けてセルネオ様に挨拶したのに、シグルド殿下が
「ルキノ嬢、遅いよ。待ちくたびれた。早く行こう。」
「では、失礼します。シルヴィア嬢。」
シルヴィアは慌てた様子で、
「何処に行かれるのです?この人は誰なのですか?」
と私を睨んでいる。
「彼女は同じ院生で、共同で研究をしています。今から、研究の続きをする約束でして。」
「初めまして、シルヴィア様。」私は、一応の挨拶をした。
「初めまして、えっと・・・。」
「アルトン子爵家のルキノと申します。」
「あぁ、アルトン子爵家の」
一瞬侮蔑を含んだ目付きで私を見た。そうでしょうとも。
伯爵家のお嬢様。
「アートゥンヌ伯爵家のシルヴィアです。」
殿下の見ている建前上挨拶を交わしてくるが、心非ずなのは見え見えだ。しかし小説の前半部分を読んだ私は無下には出来ない。
エリンシア断罪の場面で、シグルド殿下の隣に立ち笑っていた女。
希少な癒しの魔法を扱う女。
作者様の意図が後半部分にどの様な結果をもたらすか、想像しなくてはならない。
そんな私達の空気を知ってか知らずか、シグルド殿下が私を促す。
「ルキノ嬢、今日は込み入った話があってね。早速相談したいんだが。」
「分かりました。ではシルヴィア様、失礼致します。」
何時もより歩速の早いシグルド殿下とセルネオ様に、走らずに付いて行くのが精一杯だった。
ルキノ達が去った後、シルヴィアは歯噛みをした。
(何故、子爵令嬢如きが殿下と御一緒に・・・。アザルトル侯爵家が後ろ楯だと言うのは、本当の事だろうか?それとも・・・。)
シルヴィアは王妃の座を狙っていた。勿論アートゥンヌ伯爵家の総意だ。恵まれた事に持って生まれた希少な癒しの魔法。
これを機にアートゥンヌ伯爵家は、中央政権に食い込むつもりであった。
だが、シルヴィアは学園に入学してまだ日が浅い。
(アザルトル侯爵家、エリンシア、ルキノ、色々と調べる必要がありそうね。)
シルヴィアは大きく溜息を吐きながら、図書館を後にした。
「シグルド殿下、ベルン殿下に何かあったのですか?」
ルキノがこう聞いたのには、理由がある。
ルキノが学院に提出した研究課題は、健康医学である。
とは言ってもユイナに医学の知識は無いので、民間療法や現代の日本で身体に良いとされている事や、当たり前の衛生面等だが。
「幸いな事に兄上の体調はルキノ嬢のお陰もあって宜しいみたいだ。」
「ルキノ嬢、心してお聞き下さい。」
セルネオ様が一拍空けて口を開く。
「どうやら北の国境線にきな臭い動きがあります。」
「それって!!!」
(戦争になる?侵略をしてくるって事?)
ルキノは息を詰めて、言葉を失っていた。
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