第12話 秘密の会談

=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=


12 秘密の会談



「ルキノ嬢、少しお時間宜しいですか?」


いつもの様に学園の授業が終わり、図書館に足を運んだ。

リーナに補助を頼みながら、本を読み漁る事が日課になっていた。

いつもと様子が違ったのは、セルネオ様が声を掛けてきた事。

図書館で時々は見かけたが、挨拶程度の接触しかなかったのに・・・。


学園の図書館は、境界線だった。

それより奥に位置する建物は学院生、即ちエリートしか足を踏み入れる事が出来ない。

明文化された決まりでは無いが、不文律、暗黙の了解となっていた。

私は初めて境界線を越え、通称(研究棟)に足を踏み入れた。


セルネオ様からの目の合図により、先ずは礼をとる。

「御機嫌麗しゅう存じます。アルトン子爵家のルキノでございます。シグルド殿下の仰せにより罷り越しました。」


「顔を上げなさい。」


シグルド殿下の声で少し顔を上げると、シグルド殿下の横にベルン殿下が居た。


「やっほ!」

私がベルン殿下に小さく右手を振ると、ベルン殿下も振り返してくれる。


セルネオ様が1つ咳払いをして、声を出した。

「ルキノ嬢には、エリンシア嬢の魔力の事で少々お聞きしたい。」


やはりか。そうじゃないかと想像はしていた。


「わかりました。ですがその前にベルン殿下と2人で話をさせて下さい。」

私はベルン殿下を睨みながら言うと、ベルン殿下も狼狽えた様子であった。


「少しだけ時間を与えよう。セルネオ、隣の部屋へ案内しろ」


「かしこまりました。」


無言のままに案内された部屋に2人を残し、セルネオが扉を閉める。


「ル、ルキノ嬢、申し訳ない。だが、魔法の事は・・・王家の義務なのだ。黙っている訳にはいかなかった。」


「王族の前には、私やエリンシアの命など塵にも等しいと仰るのですね。」


「違う。貴方やエリンシア嬢の命は、私の命を盾にしても守る。だが、王国の全ての民の命を守る責任がある王家として・・・」


ベルンは全てを言い終わる前に、涙を浮かべて唇を噛んだ。

どんな言葉を使っても、言い訳に過ぎない。自分でも分かっていた。


「ベルン殿下の苦渋の決断は分かります。ですが友達であるならば、私達を信用しているのであれば事前に一言相談して欲しかったです。」


「・・・  ・・・。」

ベルンは言い訳の言葉さえ見つからない。


「責めているのではありません。ですが悪い所は直して頂かないと。諌めるのも友達の役割ですから。」


ベルンは溜めていた涙を溢した。

友達と・・・。まだ私を友達と呼んでくれている。


「悪い所は直す努力をする。」

詰まった声で答える。


「私やエリンシアの悪い所もご指摘下さいね。」

ルキノが笑顔を見せた。


扉がノックされセルネオ様が顔を出した。

そのまま続いてシグルド殿下が入って来た。


「兄上、仲直りは出来ましたか?」

どうやらシグルド殿下には、全てお見通しの様子だった。


会談場所を少し小さめの部屋に移して、改めて質問が投げかけられた。


「エリンシア嬢の魔力は、膨大な威力になるとお見受けするが。」


「はい。そうだと思います。」


「何故隠していたのだ?」

シグルド殿下の目が鋭く光る。


「隠していた訳ではありません。魔力判定も8歳の頃に済ませております。次期侯爵家の指名も、魔力故に御座います。王家にも承認頂いたと聞いておりますが?」


「確かに。魔力上位者のリストには乗っている。だが他の者とは桁が違う様だ。」


「逆にお聞き致します。上位8位と5位の違いは何でしょうか?」


「明確な違いは、無いが・・・。」


「魔力が高い方が、貴族間で権限を得やすい。社交界で一目置かれる。そんな所でしょうか?しかしエリンシアはそんな事を望んでいません。王家に叛逆の意志もありません。」

(寧ろ王家の一員になる事、王妃の座を狙っています。)


「その証拠に、ベルン殿下の前では隠そうとしなかったでは無いですか。」


隣でベルン殿下が、ウンウンと頷いている。


「王家への叛逆心がない事は分かった。だが、国の軍事力の把握をする事も王家の務めだ。」


「軍事力?14歳の少女を軍事力と?」


ルキノが顔色を変えると、セルネオが渋々口を挟んできた。


「ルキノ嬢の気持ちは察するが、一度戦争が起これば少女も幼子もなく虐げられ蹂躙される。それは防ぎたいという事を理解して貰えれば助かる。」


(私は戦争を知らない。転生前に授業では習ったし、他国では戦争をしているというニュースは聞いた事がある。私の考えが甘かったのだろうか?)


「承知致しました。王家に忠誠を誓います。ですが、何卒少女の気持ちを無下にする事になき様に、お願い申し上げます。」


ルキノの鎮痛な面持ちの嘆願に、セルネオは表情を固くした。

同じ少女であるルキノの気持ちを慮って。




「提案なのだが、ルキノ嬢は学院生に残る気はないか?」


「吹けば飛ぶ様な子爵家の私が、学院生に?」


シグルドとセルネオは、ブッと吹き出した。

自ら家門を貶める様な発言は、貴族の子女としては珍しい。

自尊心ばかり高く見栄を張る令嬢が少なくない中で、ルキノの表現は新鮮に思えた。


「勿論無理強いをするつもりは無いが、高い魔力には暴走も付き纏う。ルキノ嬢はコントロールを身に付けたいと聞いたのだが。」


「なります。ならせて下さい。」


学院生・・・。無理だと思っていたのに、災い転じて福か?

エリンシアが学園を卒業するまで、断罪を回避するまで。

それはルキノにとっては当初の目的でもあった。


「セルネオが推薦人になってくれるな?」


「はい、喜んで。」


「では、手続きを進めよう。」


「ありがとうございます。」

ルキノは、誰にとは無しにお礼を言った。


「これ以上リーナさんをお待たせしては悪い。兄上、ルキノ嬢を図書館まで送って行ってもらえますか?」


「分かった。」


ベルン殿下にエスコートされながら図書館に戻る。少し後方からセルネオ様も付いて来ている。


セルネオ様の事が気に掛かるのか、ベルン殿下は小さな声で聞いてきた。


「ルキノ嬢、質問が有ります。」


「何ですか?」


「その・・・『やっほ!』って何ですか?」


ルキノはクスクスと笑った。

「私が考案した友達同士が出会った時に行う挨拶です。時と場所にもよりますが、長く堅苦しい挨拶よりも親しみが有りませんか?」

胸を張ってドヤァと顎を上げてベルン殿下を見る。


「そうですね。今日は意味が分からず使えませんでしたが、次回からは私も使わせて頂きます。」


「そんな大層なものでは有りませんよ。」

ルキノは爆笑を我慢して、お腹が痛いのを堪えた。


シグルド殿下に呼び出されて、不穏な空気になった1日の最後をベルン殿下がほのぼのとした空気に変えてくれた。


2人は内緒の話をしたつもりでいたが、後方に控えていたセルネオに筒抜けの状態だった。




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