第11話 ベルン殿下とお茶会 2
=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=
11 ベルン殿下とお茶会 2
エリンシアとベルンの深い沈黙に、ルキノは気が付かないまま笑顔でお茶会を再開した。
「先程のマッサージは、毎日して下さいね。」
「あっああ、がっ頑張ってみるよ。」
ベルンはまだ平常心を取り戻してはいない。
「ルキノ?さっきの行動はいったい・・・?」
「ん?何が?それよりも殿下、魔法のコントロールを教えてくれんるですよね。」
「そうだったね。ルキノ嬢の属性は?」
「コントロール系だと思います。自分では良く分からなくて・・・。」
「じゃあ、今出来ることは?」
「エリンシアのバイオリズムを調整する事くらいかな?」
その言葉を聞いて、ベルンは暫くの間黙り込んだ。
何やら考え込んでいる様だったが、
「全力でやって見せてくれる?」
おもむろにルキノを見て言った。
ルキノは、ベルンの言った通りエリンシアに手を翳して集中を始めた。全力で力を注いでいると、ベルンがルキノの腕をとった。
「息を止めないで、小さく吐き続ける様に。」
ルキノは言われた通りにやってみる。
すると、エリンシアの頬が少し紅潮してきた。
「はい。止めて。」
ベルンがストップをかける。
「私が思うに、練習次第では凄く成長幅があると思う。色々と考えたい事があるから、今日は持ち帰らせて。」
ベルンが思案顔で言った。
ベルンは不思議に思った。エリンシアの魔力は相当な物で、何故今まで、噂に上がってこなかったのだろう。
そして、ルキノの魔法は属性は風であるが増幅魔法としてかなり期待の出来る力がある。2人揃えば1個団体の軍隊すら殲滅が可能であろう。使い方次第では・・・。
この国の決まりでは、8歳になるまでに神殿で魔力測定が行われる決まりだ。エリンシアは、面倒な事に巻き込まれない様にルキノにバイオリズムを下げて貰って、極力力を抜いて実力より遥かに下の結果が出る様に魔力測定に臨んだ。
その結果、目立たず過ごせていたのだ。
「良い方法が分かったら、すぐに連絡するよ。」
ベルンは、ルキノに笑顔で言った。
その後は、学園の話、城下の話などで盛り上がりお茶会は終了した。ベルンは殊の外楽しい時間を過ごしエリンシアとルキノに感謝を伝えた。
◇◇◇ ◇◇◇
「エリンシア、多分バレたわよ。」
「そうね。」
ルキノは気不味そうに言った。
「ごめん。」
「多分大丈夫だと思うわ。」
エリンシアは平然と言ってのけた。
エリンシアも人生の追体験をしている。逆行前の不利な状況は回避したいのは当然であるとして、しかし自分の感情を押し殺す様に生きる事も嫌だった。
多大な魔力を隠してきたのは、面倒な事に巻き込まれたくないだけで、訳ありではない。
王家からの要請があれば、対応すれば良いだけだ。
今はルキノも一緒に居てくれるのだから、大丈夫だろう。
前のルキノが自分に巻き込まれた後、どうなってしまったのか気にならないわけでは無いが・・・。
今のルキノとは、前の人生には無かった関係が築かれている。
それだけで自然に破滅への道が回避されている様な気がする。
「ルキノの思った通りにすればいいわ。ただし、私を王妃にする事を忘れないでね。」
エリンシアは笑いながら言った。
(やっちゃった、やっちゃった、調子に乗っちゃったよ・・・。)
その日の夜ルキノはベッドの上で、手足をバタバタさせながら猛反省をしていた。転生前は人間ウォッチが趣味だったルキノは、人を見る目には自信があった。
王族に生まれながら王妃や王子には勿論の事、何の力も持たない貧乏子爵家の令嬢である私にまで、顔色を伺いながら行動するベルン殿下の様子を、自分と重ねてしまったのである。
高校生の時に両親を亡くしたユイナは、少額ではあるが残してくれた保険金を頼りに高校を卒業し単身で都会に出て就職をした。
周りに頼れる人もいないので、人と争いにならない様に周りに気を使いながら、合わせて行動する習慣が身に付いていた。
上司に睨まれる事無く、同僚に妬まれる事無く、後輩に疎まれる事無く過ごした。明るく振る舞って、気安い雰囲気で人と接してはいたが、心からの友達などはいなかった。
「ユイナ、今日カラオケ行かない?」
「良いね。行く行く。」
日々そんな会話が繰り広げられ、それが平和な生活だと思っていた。別に不幸だとは思っていなかった。
この世界に転生するまでは、疑問にも思っていなかった。
あの頃の無機質な感情・・・
ベルンを見た時、その時の自分を思い出した。
この世界に転生してきて、初めは夢と現実の区別もつかないで、エリンシアに言いたい事を言った。
動揺を隠しもせず感情をそのままにぶつけるのは、気持ちが良かった。
そしてエリンシアは、当然の様にその言葉を受けて言い返してきた。
(友達ってこんな風なのかな?)
今はそう考える様になった。
エリンシアに心を委ねてしまった分、警戒心が薄れてしまっていた。
自分でも気付いていなかったユイナの刺刺とした心を警戒心が包んで、誰とでも仲良く接していたのだ。
それは誰にも心を許さないと言う事だった。
10年もの間誰とも打ち解けてはいなかったユイナが、心を開いた。それがエリンシアだった。
それを自覚したユイナは、自分を叱咤した。
(エリンシアと仲良くなったからって、良い気分になって。浮かれた気分でバラしてしまった、エリンシアの魔力の事を・・・。断罪の未来を見てるのに。エリンシアも経験しているのに。)
自分の頭をガンガンと殴りながら呟く。
(ベルン殿下がエリンシアを悪用するとは思えないけど・・・。)
ユイナは不安な気持ちで夜を明かした。
翌朝、土下座でエリンシア迎えた。
「ルキノ、今度は何?」
エリンシアはゆっくりとお茶を飲みながら、ルキノに言った。
今更ルキノの突拍子もない行動に驚く筈も無い。
「私の国の最大級の謝罪、土下座です。」
ルキノは頭を床に擦り付けながら言ったのだが
「ふーん。変わってるのね。」
エリンシアには通用しなかった。
エリンシアは、またルキノが変な事を始めたとしか思っていなかった。
ルキノは少し頭を上げて、恐る恐る聞いた。
「怒ってる?」
「何を?」
「昨日の事。」
「何で?」
エリンシアはまるで意に介して無い様だった。
阿保なのか?おおらかなのか?
さっきまでの態度を一変して、ルキノは仁王立ちになってエリンシアを見下ろした。
「エリンシア、命が掛かっているのよ!もっと警戒心を持って慎重に行動しないと。」
(あなたが、それを言う?)
エリンシアは心の中で大爆笑しながらも、澄ました顔をしてお茶のお代わりをリーナに頼んだ。
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