第8話 王宮のお茶会 3

=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました= 



8 王宮のお茶会 3



王妃殿下、王子殿下の見守られる中盛況にお茶会を終える。

それぞれに席を立って、雑談を始める者。

早々に馬車に引き上げて行く者。

本日の出来事を詳しく家に伝えなくてはならない。


「ルキノ、私達も帰ろう。」

エリンシアが立ち上がり、私に声をかけた。


勿論私に異存ははなく立ち上がった時に、バリデン様が近寄って来た。


「令嬢方、もう帰られるのですか?あちらで少しお話でもしませんか?」

あちらと手を向ける方向には、2人の令嬢が待っている。


「私達は結構ですわ。」

扇子を最大限に利用して、言葉ではなく不快の意を表す。


「ルキノ嬢だけでも。」

バリデンが手を伸ばそうとしたその時


「エリンシア嬢、ルキノ嬢。少し宜しいですか?」

背後からセルネオ様の声がした。


「セルネオ様。本日は御役目ご苦労様です。」

ルキノはセルネオに向かって礼をとった。


バリデンは心の中でチッと舌打ちをして、去って行った。


「本日は、ベルン殿下にとっても大変楽しいお茶会になったと思います。令嬢方のお陰です。」


「礼には及びませんわ。」

エリンシアは少し冷たい声を出した。不敬にはならない程度だが・・・。


「私達は私達が楽しくお茶会を過ごしただけですから。ルキノ失礼しましょう。」


エリンシアはさっさと馬車に向かって歩き出す。

私は振り向いてセルネオに頭を下げて、エリンシアの後を追った。




帰りの馬車の中、「気に入らない・・・。」

エリンシアが呟いた。


「どうしたの?機嫌が悪いわね。」

ルキノはエリンシアの顔色を伺った。


「ベルン殿下と仲良く話をして、何故シグルド殿下付きのセルネオ様が礼を言うの?ベルン殿下を見下した様な物言いに、少し腹が立ったわ。」


「ベルン殿下の笑顔が見れて、素直に嬉しかったんじゃ無いの?悪意は感じなかったけど。バリデン様からの助け舟を出してくれたんじゃ?」


「確かに悪意は感じなかった・・・。でも、腹黒いと噂のセルネオ様の事よ。絶対に何かあるわ。」


「セルネオ様って、腹黒なの?」


「そういう噂ね。」


はぅ〜。黒髪に眼鏡の上、腹黒なの?萌要素が増えたんですけど〜!!!


エリンシアは帰り道中の馬車の中、ルキノのニヤニヤした締まらない顔を見せられる事に溜息しかなかった。

今は何の話をしても頭に入ってはいかないだろう。一旦気持ちを持ち帰って、話題を詰めるしか無い。



予定より早く屋敷に戻れた。リーナにお茶を入れて貰う。

エリンシアは何か考え込んでいる様だったが・・・。

一旦カップをソーサーに戻して、こちらを向いた。


「ルキノ、勘違いしないで聞いて。私はシグルド殿下一途だから。でも、ベルン殿下が噂通りの愚鈍王子には思えないんだけど。今日お話をしていても、控えめな感じの良いお人だったわ。ルキノは何故急にベルン殿下とお近づきになったの?」


私の急なベルン殿下への接近に、エリンシアが警戒していたのだ。


「別に本当に深い意味は無いのよ。ベルン殿下、磨けば良い男になりそうだったから・・・ついね。エリンシアの言う通り、ベルン殿下は王太子への野心は無いでしょう。ならば、シグルド殿下のお役に立てるでしょう?私達のお役にもね。」


「あなた、ベルン殿下を誑かすつもり?」


「違う違う。純粋にお友達になれそうな人だっただけよ。エリンシアは嫌だった?」


「別にルキノが友達になる事は、構わないわ。」



エリンシアは、ベルン殿下を利用する様な事をするのが嫌だった様だ。セルネオ様に対しても、シグルド殿下の側近である立場でベルン殿下と接近した私達への探りを入れてくる事への不信感だ。


意外と良い人だな、エリンシア。

小説を読んだだけの印象では、自己中で他の人を尊重する人には見えなかった。


本音を言えば、悪役令嬢であるエリンシアに味方するのは気が引けた。生き残りをかけていなければ、親しくはしなかったであろう。魔法契約をしてしまったので、仕方が無いのだが。


私はバッドエンドのストーリーから離れる事を第一に考えていたのだが、エリンシアは少々強引な性格に金持ち我儘娘な所はあるが・・・。

人としてのモラルは、私の考えと大差ない。

人を傷つける様な人には、見えない。


小説の前半部分しか知らない私だが、悪役令嬢の転生にはハッピーエンドが多い。誤解があったとか、改心したとか。

エリンシアがどちらかは分からないが、2人が力を合わせてハッピーエンド。ルキノからのセルネオ様ルートもあるのでは?

邪な事が頭を過り、顔面崩壊するルキノを冷ややかな顔でエリンシアが見つめていた。


「ルキノがベルン殿下に対して悪意が無い事は分かったわ。侯爵家でのお茶会は、段取りします。3ヶ月後で宜しいかしら?」


「そうね。デトックスの効果が現れるにしても、それくらいはかかるでしょうから。」


「招待は、ベルン殿下だけで良いの?」


「そうね。最初は3人だけの方が良いと思うわ。変に勘繰られても困るしね。」


「ではリーナ、その様に。」

エリンシアはリーナに詳細を言い渡した。


「ねぇエリンシア、3ヶ月後のお茶会でベルン殿下にデトックスの効果があったら、私の言う事を信用してくれる?」


「3ヶ月も待たなくて良いわ。私は、ルキノの事を信用しているもの。」


「前世のエリンシアが何をしたか、私知っているわ。」

エリンシアの学園入学と同時に度々起こる不可解な事件。

ヒロインへの仲間外れや攻撃。果てに卒業パーティでは、王族の揃う前で、攻撃魔法を使うのだ。処刑はやむを得ない。


「何故転生前の事を知っているの?」


小説の内容だとは、言えない。


「実は転生前に、王家の歴史書を先読みしたの。エリンシアが逆行する場面で私も転生してきたから、続きが分からない。」


「ルキノは本当に使えない人ね。」

エリンシアは呆れた様な口調で言ったが、顔は笑っていた。


もしかしてだけど・・・エリンシアはツンデレさんなのかな?


キツイ言葉の時も、労りを感じる。

そして、私を疑う事なく直ぐに信用してくれた。

魔法契約書の事も、最初は私を縛り付けて置く為だと思っていたが、よくよく考えれば私にメリットしかない。


エリンシアの攻撃魔法は私には効かないし、私が発言をし易くするための配慮だろう。と思うのは、自分にとって都合の良い解釈なのかな?


『真実の愛は永遠に』の前半部分・・・作者様は意図的に、エリンシアの悪業を大仰に描かれていたのかも知れない。




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