第7話 王宮のお茶会 2

=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました= 



7 王宮のお茶会 2



王家主催のお茶会ではあるが、王家の意図通りに進むとは限らない。事実としてベルン殿下が直ぐそこまで来ていた。

隣にはセルネオ様を従えている。


シグルド殿下は、まだ最初のテーブルからやっと次のテーブルに移ろうとしているところだった。積極的な令嬢達が、中々離れてくれないのだ。


その様子を横目に、ベルン殿下は気不味そうに最後のテーブル、私達の所へ向かって来ていた。どのテーブルに行っても形式的な挨拶の後は話が弾まずに早々に済ませていた。


「エリンシア嬢、ルキノ嬢。初めまして。」

ベルン殿下が声をかけて来た。

私達は立ち上がり、淑女の礼をとる。


私はチラリとセルネオ様の方をみた。

セルネオ様が私の視線に気付く。


「セルネオ様、殿下にお声がけしても宜しいでしょうか?」


セルネオ様が小さく頷く。


「アルトン子爵家 のルキノと申します。恐れながらベルン殿下にデトックスをお勧め致したく存じます。」


「デトックス…とは?」

ベルン殿下が、初めて聞いた言葉に首を傾げた。



初めて見るベルン殿下の顔。肌艶が悪く青白い。髪の毛パサついていて血行が悪く感じるが、顔の作りは整っていた。

今日みたいに義務が生じない限り、普段は部屋からも出ず床に伏す事が多いのだとか。


「デトックスは体調を改善する、習慣の様なものです。まずは、白湯を沢山お飲みになり朝夕に散歩される事から始めて下さい。」


「体調の改善なのに、薬湯ではなく白湯?ルキノ嬢は、面白い事を申すな。」


「はい。是非試して下さいませ。そして朝、太陽の光を浴びて出来れば散歩をして下さい。」


「白湯と散歩か。どちらも出来なくは無いが・・・。」


本当はヨガやリンパマッサージも勧めたいが、根本の病名が分からない限りどうしようもない。


「アザルトル侯爵家のエリンシアと申します。」

エリンシアが立ち上がり礼をする。


「エリンシア嬢、初めまして。名前は知っています。」


「光栄に存じます。ここにいるルキノの言は、私が保証致します。」


「エリンシア嬢がそこまで言うなら、やってみようかな。」


ベルン殿下はそう言いながら小さな笑みを溢した。

ベルン殿下の朗らかな笑みに私達も顔が綻ぶ。


「お2人はとても仲が良いですね。」


ベルン殿下の言葉にエリンシアと顔を見合わせた。


『はい。』ハモッた返事にベルン殿下は笑っている。


「羨ましいな。私にも友達がいれば・・・。」


「では、私達と友達になりませんか?」


「ルキノ、不敬よ。」

エリンシアがルキノを諌めた。


「不敬だなんて、とんでもない。エリンシア嬢とルキノ嬢も家格を超えて友情を育んでらっしゃる。私も仲間に入れてもらえると嬉しい。」


「ええ是非喜んで。今度は侯爵家のお茶会に招待致しますね。ゆっくりと3人でお話を致しましょう。」


「その時には、ベルン殿下がデトックスを実践されているか確認をさせて頂きますわ。」


そう言いながらルキノは鼻をフンッと鳴らしながらふんぞり返っている。さながら先生にでもなった様に。


その大仰な態度に表情を緩めたベルンは

「ああ、楽しみに待っているよ。」

と言って笑った。


3人が顔を見合わせて笑っていると、シグルド殿下が近づいて来ていた。


「兄上、随分と楽しそうですね。」

シグルド殿下がベルン殿下に声をかけた。


「ああ、久しぶりに笑った気がするよ。エリンシア嬢、ルキノ嬢、次に会える日を待ってますよ。」


「はいベルン殿下。必ず。」

エリンシアとルキノは再び立ち上がり、礼をとった。


ベルン殿下とセルネオ様が、王妃の元に戻られる最中、シグルド殿下の方に体を向け淑女の礼をとる。


「兄上とは、どの様なお話を?」


「たわいもない話ですわ。」


「健康オタクの戯言を聞いてもらっておりました。」


シグルド殿下とは言えど、王族であるベルン殿下との会話の内容を王族であるシグルド殿下にすると言う事は、マナー違反である。

正式な場で、詰問される理由が無い限りは、教える義務は無い。


「ベルン殿下は寛大なお心で、私達の戯言に付き合って下さったのですわ。」

この話はもうお終い。と言う意味を暗に告げた。


「シグルド殿下も令嬢達と大変楽しそうに歓談されておりましたね。楽しそうで、何よりでしたわ。でもベルン殿下もお戻りになられましたし、シグルド殿下もそろそろ戻られた方がよいのでは?王妃様をお待たせしては、なりませんもの。」


「そうですね。エリンシア嬢、ルキノ嬢、余り時間が取れずに申し訳ない。では。」


エリンシアとルキノは立ち上がり礼をとって、シグルド殿下を見送った。




「ふぅー。ルキノ、急に打ち合わせに無い事を始めるから焦ったじゃない。」


「シグルド殿下とセルネオ様は、とても素敵な方よ。でも、ベルン殿下も男前だったから、勿体無いじゃない。お友達になってベルン殿下をモテ男にしちゃおうかと思って。」


「そんな理由?私は、シグルド殿下一筋よ。」


「私もセルネオ様一筋ですよ。でもお友達になるくらいは、良いじゃない?」


打ち合わせをしていた作戦は、エリンシアがルキノと下座に座る事で、格下の令嬢を無差別に見下したり虐めたりはしない。という印象を与える事。

同時にルキノに注目が集まる様にして、社交界でのルキノの発言に重みを持たせる事。

そして無邪気な友達ごっこに夢中な自分達はまだまだ子供だ。

と王族に思って貰う様に仕向けた。


作戦は成功したと思われるが・・・。

ルキノはベルン殿下の事が気に掛かり、作戦の打ち合わせには無いベルン殿下との先の会話になってしまったのだ。


「独断は悪かったけど、お友達が増えるのは良い事よ。悪い人にはみえなかったし、必ず良い方向へ進むはずよ。」

ルキノは自信満々にエリンシアを見た。


「あとで説明してもらうからね。」


そう言って終焉に近いお茶会を楽しむ事にした。


この日、王妃殿下や招待された貴族の令息令嬢から一身に興味を引いたのは、エリンシアとルキノであった。




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