第6話 王宮のお茶会 1

=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました= 


6 王宮のお茶会 1



今日も収穫が無し。溜息を吐きながら立ち上がる。

ルキノは相変わらず図書館にある本を大量に借り出し、リーナに部屋へと運んでもらっていた。

転生前のユイナの時も本を読む事が好きだった。フィクションや漫画でも、新しい知識を得る事が出来る。

だが、体力の消耗は半端無かった。



「ルキノ丁度良い時に。ちょっとこちらへ来て下さる?」

学園から帰ってすぐに、エリンシアに捕まった。


「衣装合わせをしているの。来週の王家主催のお茶会に来ていくドレス。あなたも合わせて。」


「わっ私もですか?エリンシア、私大きなお茶会に出席した事が有りません。王家主催なんて...。」


「だからよ。気合い入れなくっちゃ。」


「でも...。」


「社交場は大切よ。あなたがいつも読んでいる本の1冊分くらいの情報が、簡単に手に入るわ。」


エリンシアの言う事は、真っ当だ。

この際、現場を目で確かめて色々な事を探って見るのも悪くない。いや寧ろ王妃に王太子妃候補の令嬢達を、この目で品定めするのも悪く無い。


「いい考えだと思う。ただ...私は招待されてないよ?」

当たり前の疑問を口にした。


「私を誰だと思っているの?」


「エリンシアだと思う。」


「アザルトル侯爵家嫡女、エリンシアよ。」


(あぁ権力と金を使ったのね。)


「分かったわ。取り敢えずマナーを学び直さないと。エリンシア宜しくお願いするわね。」


覚悟を決め、リーナを交えたお茶会練習を5日程やり遂げ、いよいよ本番当日。




アザルトル侯爵家の家紋(ライオンに雷)の入った馬車が、王宮南門まえに到着する。

アザルトル侯爵家で雇っている護衛騎士の2人にエスコートしてもらって、エリンシアと一緒に門をくぐった。勿論後ろから、リーナを始め侍女達もついてくる。

私は扇子から目だけを出して辺りの様子を伺った。


この王国の結婚適齢期の男女が、一斉に集う。

一種の集団見合いみたいなものだ。

勿論、第2王子のシグルド殿下妃候補や第一王子ベルン殿下妃の候補もこのメンバーから選ばれるであろう事は、皆承知の上で。


令嬢側の序列で言えば、エリンシアがトップで私が最下位というところだろう。その2人が仲良く並んで歩く姿は、令息令嬢達の興味を引くには十分であった。


「エリンシア様、ご機嫌麗しく存じます。」

伯爵令嬢のリリアン様が声をかけてきた。

子爵令嬢ごとき、鼻にもかけない。リリアン様と私では雲泥の差だ。


「ええ。」エリンシアは冷たい微笑みを返した。


「ルキノ行きましょう。」


私はリリアン様に頭を下げて、エリンシアにくっついた。


テーブル席の1番下座にエリンシアが座ると、周りの人達が狼狽え出した。打ち合わせ通りの展開だ。

私が上座に座ると、無礼な行為に当たるが

エリンシアが下座に座るとは思ってもみまい。私はエリンシアと並んで座って周りの様子を伺った。


すると空気を読まないバリデン様が、早速と近づいて来た。

侯爵家の嫡女であるエリンシアを射止めれば、逆玉だ。

狙ってくる殿方は多いであろうが、バリデンは無いわ。


「エリンシア嬢、ルキノ嬢。席をこちらへ移しませんか?」


成程、バリデンは良い席を確保していると見える。


王妃や王子との距離を程よくとり、マリエッタやプリシラのような人気の令嬢を近くに置く。その中にエリンシアと私も入れようと言うのだ。

だが、うちのエリンシアを舐めるなよ。


「お断りします、バリデン様。私はルキノと一緒にこの席に座りたいのです。格上の方からの命令しか受け付けません。どうぞお引き取り下さい。」


扇子で口元を隠して軽蔑の眼差しを向けている。

流石エリンシア、目線で射殺す事さえ出来る様だ。


「バリデン様、また後程。」

私は渋々バリデンに助け舟を出してやった。

あなたに計画をおじゃんにされては、困るのよ。


バリデンが否応無しに引き下がってから、遠巻からの令嬢達の目線が刺さる。私に対する嫉妬心か?何故お前如きがエリンシアと仲良く座っているのか?


しかし、たかが10代の小娘。痛くも痒くも無い。

こちとら、社会人何年目だと思っているの?虐めや理不尽な事にさえ耐えて来た。日本の会社員舐めるなよと言いたい。


エリンシアと談笑を始めると、他の貴族達も各々に気の合う友人達と談笑をはじめた。

エリンシアは時折り挨拶に来る貴族達に、冷たい微笑みを返しながら、直ぐに私の方へ向き直る。

ルキノは、この日の集まりの令嬢の中で1番格下にも関わらず、1番注目を集める存在となっていた。

悪目立ちというやつだ。



そんな最中、賑わっていた庭園の談笑がピタリと止んだ。

王妃殿下と王子殿下が入場して来たのだ。

シグルド殿下が王妃殿下の手を取り、それに続いてベルン殿下セルネオ様が登場した。


招待された貴族達は一斉に立ち上がり、紳士淑女の礼をとる。


「顔を上げて宜しい。」

王妃殿下の涼やかな声で、皆が顔を上げた。


「お座りなさい。」

王妃殿下がそう言うと自らが着席し、シグルド殿下ベルン殿下がそれに習う。

王妃殿下が全体を見回す様に少し顔を動かしていると、目線を固定した。


「アザルトル侯爵令嬢?何故その様な席に?」


エリンシアが立ち上がり再びドレスの裾を摘み膝を折る。

「王妃殿下、ご機嫌麗しく存じます。本日はこちらに居るアルトン子爵令嬢のルキノ共々ご招待頂き有り難う御座います。」

ルキノも立ち上がり礼をとった。


「随分と仲が宜しいのね?」


「はい。ルキノは私の分身。双子の姉妹の様に思っております。」

エリンシアの平然とした嘘に、ルキノも肖る。


「アルトン子爵家のルキノと申します。本日は王妃殿下にお初にお目にかかります。」


優雅な姿勢で挨拶をする。

エリンシアにダメ出しをされ、何回も何回も練習した成果だ。


王妃殿下はコクリと頷かれ、お茶会は再会された。


円形テーブルが幾つも並んだ様は現世でみた結婚披露宴さながらだ。新郎新婦の場所に王妃殿下、王子殿下。

1番近いテーブル席は親戚の重鎮か。その後方に会社の上司。

1番遠いテーブル席に友達などである。シグルド殿下とベルン殿下は逆舞に、各テーブルに声を掛けて行く。


あざとい令嬢達は、期待に胸を膨らませていた。




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