第5話 学園休日

=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=


5 学園休日 


シグルド殿下とセルネオ様が宮殿の一画で優雅にお茶を飲みながら、語らっていた。


「マリエッタ嬢の様子はどうだ?」


「最近は大人しくされています。」


「ふむ。では、プリシラ嬢は?」


「トラブルは巻き起こしていますが、誰も相手にしていないようです。」


「では、ルキノ嬢は?彼女はアザルトル家が背後にいる。関係も含めて調査が必要だが。」


「問題を起こしてはいませんが...何やら意味不明な事をしているようです。この間は避雷針とか言うものを学園の至るところに設置しておりました。」


「今問題のある生徒は、この3人以外にいるのか?」


「はい。今年度入園したリードン伯爵家の次男バリデンくらいですかね。」


「はぁ〜、令嬢絡みか。バリデンの事は放っておけ。いずれ墓穴を掘るだろう。」


「承知しました。プリシラ嬢は如何致しますか?」


「これ以上他の令嬢達の刺激になる様なら、一回釘を刺すか。引き続きマリエッタ嬢とルキノ嬢も、しっかり見張るよう。」


「ルキノ嬢の方は私が担当しても宜しいでしょうか?」


「...珍しいな。セルネオが令嬢を気にかけるとは。」


「ルキノ嬢の行動拠点は主に図書館なので見張るのが楽です。色々と調べている様なのですが、気に掛かる事も御座いまして...。」


「分かった。セルネオに任せる。」


休日とはいえ、気の抜けない会話を繰り広げている2人。

それには理由があった。

今は休戦している隣国との国境が何やらきな臭い噂が。

我が国は大陸の南に位置する大国だ。気候も良く作物も豊か。

海に面している事もあり、漁港も活気を見せている。


しかし、その豊かな資源を狙ってくる国が後を経たないのも事実。

今国王は、国境線にある関知魔法陣の強化に出かけており王国の首都の内政は、シグルド殿下が指揮している。


主要貴族達には常に王家の影が目を光らせているが、学園は貴族社会の縮図だ。生徒達の様子を見れば、その家の事情が透けて見えてくる。そうした状況を把握し、活用する。

それもシグルドに課せられた事なのだから。


「シグルド殿下、早速明日よりルキノ嬢の監視をさせて頂きます。」


「何か考えがある様だな。この話はセルネオに一任するとしよう。」


シグルドはそう言いながら、少し冷めたお茶を飲み干した。






数日後、学園の図書館で


「ルキノ嬢、本を取って差し上げますよ。」


「バリデン様。有難いお言葉では御座いますが、本は侍女が用意してくれております。お気遣いは結構で御座います。」


「侍女には、お茶でも入れて貰うがいい。どんな本が良いのかな?」


「...いえ。特には。」


ルキノは辟易してした。このバリデンたる男の空気の読めなさ故に。邪魔でしかないのに、話しかけてくる。

確かにルキノは可愛いわよ。でも今は忙しいし、あなたはお呼びでは無いの。


「リーナ、昨日の続きを。」

ルキノはバリデンを無視する事にした。


「ルキノ様、既に揃えております。」


「リーナは優秀ね。有り難う。」


「ルキノ令嬢は、本がお好きなのですね。今は何をお読みになっているのですか?」


懲りずに話しかけてくるバリデンに、令嬢らしからぬ目を向けようとした時


「リードン伯爵令息、ルキノ嬢と内密な話があるので、席を外して貰えませんか?」

セルネオ様が冷たい声を掛けてきた。


「失礼しました。ではルキノ嬢、またの機会に。」

そう言うとバリデンは足早に去って行った。


思わぬ登場人物にルキノが目を丸くして驚く。


「ルキノ嬢が困っている様に見えたのですが、迷惑だったでしょうか?」


「...いえ。有り難う御座います、セルネオ様。」


「では私はあちらのテーブルで本を読みますので、ごゆるりと。」


セルネオが隣のテーブルに移動しようとした時、咄嗟に口走ってしまった。


「あのっ...。この王国は何百年もの間...ずっと平和だったのでしょうか。飢饉や他国の侵略などは、無かったのですか?」


ルキノの突拍子のない質問に些か眉を動かしたセルネオだが、テーブルの上に置かれてある本に目を落として納得した。

王家の歴史書『真実の愛は永遠に』が置かれている。


「ルキノ嬢は、国政に興味が?」

冷たい表情を保ちつつセルネオが聞いた。


「いえ、興味が有るのは歴史です。歴史書を全て読みましたが、飢饉や戦争の話は無かったので...。どれ程の平和が続いたのかと。」


ルキノは(早まったか?)と後悔したが、焦る気持ちが口を付いて出てしまった。言ってしまったものは、しょうがない。

怪しまれずに会話を終わらせる方向を考える。


「歴史書は、大衆小説よりも面白いですわね。王家のロマンスに胸にときめかせています。」


「そうですか。では...」

興味が無い...といった様子でセルネオは隣のテーブルに移り、専門書らしき本を読み始めた。


気不味い空気になったものの、ルキノは気持ちを切り替えて魔法書を読みながら

歴史書と情報を照らし合わせていた。


聖女が使ったとされる、癒しの魔法とは?

勇者が使ったとされる、攻撃的な魔法とは?


この世界の魔法の種類や法則を、あらゆる角度で検証しなければならない。気の遠くなる作業ではあるが、権力も財力もない平々凡々な令嬢である私が出来る事と言えば、歴史書(小説)から予測される事態を読み解くしか無い。


ルキノは歴史書(小説)から抜粋した不自然な展開を魔法書で

解決しようと試みた。


国政から見ての魔導士の立ち位置や、王家に影響を及ぼした魔法の過去の事例。調べていくうちに、ご都合主義が垣間見えてきて、結局のところは何でも有りだなという結論しか導けなかったのだが。





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