第4話 作戦名 潜入 3

=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=


4 作戦名  潜入 3



レーザー光線ですやん...

レーザー光線ですやん...

レーザー光線ですやん... ...。


体に穴が開くよ?当たったら死ぬよ?


ほんの数分前まで話をしていた契約書の内容など、全て吹っ飛んだ。頭の中は、レーザー光線しかない。


「エリンシア...今の...?」


「あっ、ミミズよ。虫とか大嫌いなのよ。誰でもそうよね。」


「好きではないけど...。違う。指から何か出たよ?」


「雷の魔法よ。言ったでしょ?属性。」


「あんな威力なの?」


「まさか...違うわよ。相手は虫なのよ。ちゃんと手加減したわよ。」


反射神経というやつか。

エリンシアは憤慨している様だが、ルキノは違う事を考えていた。手加減?本気を出せばどうなるの?

聞きたい様な、聞きたく無い様な気持ちを押し殺して冷静な声でルキノは口を開いた。


「エリンシアが本気を出せば、どの程度の攻撃力になるの?」


「うーん、戦場だったら100メートル四方内の軍隊は殲滅できるかな?ルキノが魔法をかけてくれたら、それ以上頑張れるわよ。」


エリンシアは不敵な笑みを浮かべているが、リーナは隣で溜息を吐く。

殺される...。私はエリンシアと少しづつ距離を取った。

その様子に気が付いたエリンシアは、


「ルキノは大丈夫よ?攻撃魔法のど真ん中にいても。さっき契約が成立したから。試してみる?」


エリンシアが恐ろしい提案をしてくるが、私はそれを断った。



「レモン水でございます。」

リーナが何事も無かったの様に、2人の間に入って言った。


取り敢えずエリンシアの向かいにある椅子にテーブルを挟んで腰掛けた。頭の中を整理しよう。


歴史書である「真実の愛は永遠に」は全て読んだ。

この国の国教も少しは勉強した。王家と経典は良いバランスを保っている。教王はこの国では伯爵に並ぶ権力を持つ地位にある。王族の血縁者などが多い公爵や宰相、国軍団長よりは下。

しかし王族を含めた貴族の婚姻や養子縁組などの裁量の管理は独占している。


成程、恋愛体質の王族一族。教王とは仲良くしていたい。

平民上がりの偽聖女や、なんちゃってヒロインの男爵令嬢。

そんな婚姻が成立してきたのは、そんな背景があったのだ。


「エリンシアは、王妃になりたいの?それともシグルド殿下と結婚したいの?」


「同じ事でしょ?」

少し首を傾ける仕草が愛らしい。


「第1王子が王太子になった場合は?第1王子とシグルド殿下、どちらを選ぶの?」

意地悪な質問をぶつけてみた。


第1王子ベルン殿下は、母親が平民出身である上にお身体が弱いという噂だ。

王族、貴族、平民の皆が第2王子であるシグルド殿下が王太子になると思い込んでいる。


しかしこの世界は「真実の愛は永遠に」だ。

何が起こるか分からない。恋愛感情で国政を動かしてきた国なのだ。


「ベルン殿下が王太子殿下になっても、私はシグルド殿下と結婚するわ。そして、シグルド殿下と共に王位を奪還する。今回こそ冤罪を防いでみせるわ。」


ブレないわね、エリンシア。しかし冤罪とは?罪の意識がないのかしら?


「それは、シグルド殿下をお慕いしていると言う事かしら?」


「なっ何を言っているの、ルキノ。おっお慕いしているだなんて。私は...ただ...王妃に。」


真っ赤に顔を染めたエリンシアが、言葉に詰まりモゴモゴと口を動かしている。あらあら、可愛いとこあるじゃない。

小説の中のエリンシアは、欲望と打算で行動をしていると思っていたが、今のエリンシアは年相応に見える。

王子様に憧れる少女の姿だ。


...って事は、嫉妬心から衝動的にヒロインを攻撃したの?

エリンシアの性格から言うと、悪意ではなく我儘で起こしたのかも知れないが...。だとしても、処罰は免れない所業。

どうすればバッドエンドを回避出来るのか...。



悩みが頭の中で渋滞している中、ポツリとエリンシアが口を開いた。


「シグルド殿下は、とても素敵な方じゃない?ルキノはどう思っているの?」


「私はセルネオ様の方がタイプですかね。」


「タイプって何?」


「好ましいと言う意味です。」


考え事をしながら会話を進めていた私は、ポロリと本音を言葉にしていた。

気が付けば、エリンシアどころかリーナまでが目を丸くしてこちらを見ていた。


「いいわ。それとってもいいわ。そうしましょう?」

エリンシアが私の手を握って目を潤ませながら言っている。


そうしましょう。って、どうするつもりなのか。


「シグルド殿下が王陛下で私は王妃に。セルネオ様が宰相になり、ルキノはガザルディア公爵夫人。4人で国を盛り立てましょう。契約期間を延ばさなくてはね。」


「ちょっと待って。」

興奮して勢い付いたエリンシアを制止した。


「貴族の婚姻が、そんなに簡単にいくわけないでしょう。あなたも侯爵様の許可を貰わなければならないし、私も仮の親であるアルトン子爵の了承が...。」


言い終わらないうちにエリンシアが口を挟む。


「大丈夫。アザルトル侯爵家の全権はエリンシア、この私にあるの。両親は私が侯爵家を継ぐまでの繋ぎなの。跡取りの指名権もないわ。お爺様がそういう手続きをなされたから。」


そういえば小説の中でも、エリンシアの発言や身勝手な行動に驚いていた。侯爵家とはいえ、令嬢に過ぎないエリンシアの影響力がかなり強かった。

作者様。こういう細かい描写を書いて貰わないと。

伝わるものも伝わらなくなるから。


作者様のふんわりとした世界観が全てでは無い事を改めて実感した。

王族の歴史書でもある小説『真実の愛は永遠に』は、何故細かい描写なく存在するのか?矯正力でも働いたのか。

恋愛だけで生きている王族が何世代も続く訳がない。

本当の史実を綴った書簡は残されてないのか?


私は明日から一層忙しくなる事を覚悟した。



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