第3話 作戦名 潜入 2

=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=


3 作戦名  潜入 2



エリンシアが用意してくれた馬車に乗り、いざ初陣。


リーナが側にいてくれるので、不安が少し減った。

警戒は必要だが...。



「おはようございます。」


「ご機嫌麗しゅう存じます。」


朝の挨拶が、あちらこちらから、聞こえてくる。

私もエリンシアに習った挨拶を最小限に交わしながら、リーナの案内に従って足を進めた。


初日、まずは学園理事室に挨拶に行き転入の最終手続きを済ませる。

そして生徒会室に挨拶に行く。


今日のワンポイントはココ。

生徒会長...シグルド殿下とセルネオ様に挨拶。


本当は関わりたくない相手なのに、1番に関わるとは。

私は図書館に行きたいのだよ。この世界の歴史や文化、調べなければならない事が沢山ある。予行練習通りさっさと済ませて

2度と関わるまい。決意を胸に秘めてリーナの案内に従う。


「ルキノ様、この部屋で御座います。」

リーナは私に一呼吸付けさせて、扉をノックした。



向う側から扉が開けば、居心地良さそうなソファーに座るシグルド殿下と、その横に姿勢正しく立っているセルネオ様が居た。

シグルド殿下は、流石の王族。金髪の眩しい美形王子。

ビジュアル的には、エリンシアとお似合いだと思う。

セルネオ様は、黒髪メガネ男子。私の大好物だ。

心の中で(ありがとうございます)と5回唱えた程だ。



セルネオ様が挨拶の許可を出して下さった。


「ご機嫌麗しゅう存じます。アルトン子爵家の次女、ルキノで御座います。」

顔は上げずにカーテシーをする。


「顔を上げて宜しい。」

シグルド殿下の声が掛かり、姿勢を戻す。


「ルキノ嬢は、エリンシア嬢の推薦で編入して来たとか?」


「はい。」


「何故?」


「何故だかは分かりませんが、エリンシア様は私に大変優しく親切にして下さいます。」


「ルキノ嬢、魔力の方は?」


「微量では御座いますが、コントロール系です。」


「分かった。ではルキノ嬢、学園で良く学び立派な淑女を目指して頑張りなさい。」


「心得ました。では、失礼致します。」


退室し、リーナが扉を閉めた。

ふぅー。最初の難関を突破。エリンシアの心象も持ち上げた。後はなるべく1人...いや、リーナと2人で目立たず過ごすのみ。


「ルキノ様、今日の予定は終了です。授業は明日からなので。どうなさいますか?」


「図書館は、利用できる?」


「はい。ご案内致します。」


今日は、歴史に関する史料を読み漁る。

リーナに手伝って貰い、図書館の本を探し回った。


リーナの持ってきた本の中に、表紙の豪華な本が目に入った。

「これだわ...王族の歴史書。」

私は小さく呟いて最初のページを開いた。


「これはっ...!」


吃驚だ。吃驚だ。吃驚だ!!!

初代の王陛下が幼少の頃からの物語りが、そっくりそのまま

『真実の愛は永遠に』の第1章だ。


何百年もの前から、小説のストーリーをなぞっていたのだ。


そして次の王太子が第2章、次が第3章。

わたしが読んだのは、ここまでで。

第12章の主役、シグルド殿下が12代王陛下になるのだろう事は容易に想像がついた。


兎に角、第4章からを読まなくては。

「リーナ、ここに有る本は貸し出して貰えるのかしら?」


「貸し出して貰える物も有りますが、その本はダメですね。

背表紙が金色の文字で綴られているものは、貴重な本です。背表紙が黒の文字であれば借りられます。」


リーナの言葉に

貸し出し可能な本のチョイスをリーナに探して貰って、私は『真実の愛は永遠に』の第4章を読む。

速読術とまではいかないけど、本を読むのは割と早い方だ。

集中して読んでいると、いつの間にか夕方になっていた。

リーナから声が掛かるまで、気が付かなかったわ。


「ありがとうリーナ。」


無口で出来る女は、大好きだ。

リーナは私が本に集中している間に、説明した本をチョイスし探し出し、帰りの馬車まで呼んであった。


屋敷に帰ると退屈そうな顔をしたエリンシアが迎えてくれた。

私が帰って来るのを待っていたらしい。


「それで、私は王妃になれそうかしら?」

エリンシアが上からの目線で聞いて来る。


「エリンシアが王妃になる為には、30...いや50くらいの手順を踏まなければならないわね。」


「そう。私は少し領地へ戻らないといけないの。ルキノ、1年以内に何とかなさいね。」


私は遠回しに無理だと告げたつもりだったけれど、エリンシアには伝わらなかった。



1ヶ月程、学園で授業。その後時間の許す限り図書館。家で借りた本を読み漁る。を繰り返す日々が続いた。

『真実の愛は永遠に』を最後まで・・・第11章まで読んだ。


勇者、悪役令嬢、聖女、ヒロイン。テンプレ、テンプレ。

時にはライバル勇者とヒロインを取り合い。

時には逆ハーを目指したヒロインが断罪を受け。

時には王太子が卒業パーティで婚約破棄をし。

時には悪役令嬢が実は良い人でした展開になり。


この国の王族は、阿保なの?阿保ばかりなの?

王族の歴史書には、恋愛の話だけしか無かった。

作者様が、悪いのか?


政治は?経済は?魔物退治は?隣国との関係は?

肝心な情報は何も得てない。

シグルド殿下も阿保?次期宰相のセルネオ様も阿保?

嫌だ〜!嫌過ぎる〜!


1ヶ月かけて『真実の愛は永遠に』を読破した事を後悔して、宗教と法律と魔法について勉強する事にした。

無駄に過ごしてしまった1ヶ月を取り返さなければ...。



『真実の愛は永遠に』を読んで得た唯一の利は、制裁の基準を想像出来る事。少し程度の不敬罪は、死罪にならない。

だから王族は冤罪をでっち上げるのだ。

それにでっち上げに失敗した王太子は、廃嫡になったりしている。何事も証拠が大事だ。




久々に寛ぐ休日。我が物顔で、アザルトル侯爵家別邸の庭に有る四阿でリーナの入れたお茶を飲む。


私も人の家で...大概図々しいよな。

まぁエリンシアに協力してるし。罪悪感を隅に追いやった。


「ただいまルキノ。あっ、リーナ冷たい飲み物を持って来て。」


「かしこまりました。」


エリンシアが帰ってきた。1ヶ月振り?


「ルキノ、良い物が有るの。契約書よ。私と3年契約しましょう。」


契約書?まぁ大事だが、何のために?と思い説明を聞く。

2人が対等に、そして裏切らない様に。

細かい制約を理解して、専用の羽ペンでサインを書く。

すると、文字が浮かび上がり金色の光を浴びて弾ける様に消えた。


やはり異世界だ...。


「私はルキノを出来るだけ支援するわ。学園卒業後も。ルキノは私の未来を変える努力をしてね。」


そんな威圧感いっぱいの笑顔で言われても...。

私もそれしか生きる道は無いのだが。


「そうですね。お互い...」言い終わらないうちに


「嫌っ!!」エリンシアが立ち上がり指を立てていた。

指先から光がほと走る。


レーザー光線やん。


「お嬢様、ミミズも花壇の土を肥やすために役に立っているのです。あぁ、ミミズと一緒に薔薇の花も...貴重品種ですのに。」


冷たいレモン水を片手に、リーナが溜息をついた。


リーナの目線の先には一センチ角に地面が焼け焦げていた。


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