第2話 作戦名 潜入 1

=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=


2 作戦名  潜入 1



「エリンシア、貴族学園に編入出来ないかな?」


「ルキノは唐突ねぇ。」


突然思い付いた訳ではない。

小説の流れを辿れば、エリンシアの処刑の原因の全てが学園にある。


ヒロインへの過度な虐め。傲慢な振る舞い。

シグルド殿下とセルネオ様の頭痛の種は、何時もそこにあった。


貴族学園は、14歳~15歳の2年間だが。エリンシアには後1年の猶予がある。私が一足早く学園に入り込み、種を蒔く必要がある。所謂『潜入捜査』だ。


出来れば高位院生に残りたい所だが...。

学園卒業者の数名だけに許された、高位院生。もう2年学園に残れる。

成績優秀者や特異魔法者など、研究者達の能力が遺憾なく発揮出来る制度だ。


「出来ると思うわよ。」


「どうやって?」


「金と権力。」


仕方ない...か。今は一刻を争う。エリンシアの金と権力のお世話になろう


「エリンシアの最終目標は?」


「王妃。」


目標高いよ、高過ぎるよ。まずは生き残ろ?


私が高位院生になれる可能性はかなり低い。

でも院生に残れれば、エリンシアを見張れるしフォローも出来るかも知れない。先ずは学園に編入する事だ。




エリンシアの両親は、典型駄目貴族だった。

王都に近い、広大で豊かな領地の運営を人任せにし、贅沢三昧の生活をしている。


今エリンシアが住んでいる屋敷も(私も居候)別邸で、本邸には両親と弟が住んでいるらしい。

エリンシアは魔力が高い為、両親が近寄って来ないのだ。

エリンシアを邪険に扱う両親。それは嫉妬と恐れ、両方兼ねてた気持ちから来たものだ。


3代前の侯爵様が優秀な方で、今があるに過ぎない。

エリンシアだけが、膨大な魔力を継いでいる事が幸いだ。

隔世遺伝すごいわ。


「取り敢えず最低限のマナーと貴族のタブーを教えて。」


「ルキノだって子爵家の娘でしょ?あぁそうか。」

そうだよ。私は、ルキノじゃない。


曖昧な知識で貴族に接触するのは、ヤバい。

編入までの1ヶ月、私とエリンシアの猛特訓が始まった。


「もっと優雅に出来ないの?」

エリンシアが大きな溜め息を付く。


挨拶やマナーの練習だけで、毎日がクタクタになる。


自分より上の爵位の家の者を許可なく愛称で呼ばない。

発言をする時は許可を取り、自分の名前を名乗ってから発言する。

上の爵位の者は下の爵位の者に、侮られてはいけない。

大声を出すのは、はしたない。

異性とみだりに接してはならない。

パーティーでダンスをする時、ファーストダンスは夫婦または婚約者、またはエスコートの相手でなければならない。相手のいない時は家族でなければならない。

夫婦、婚約者、家族以外の異性とは、一曲以上踊ってはいけない。


「エリンシア...この話、まだ続く?」


「まだまだ有るわよ。」

エリンシアがニタリと笑う。


必要な会話の時以外で異性の正面に立たない。横に立つ時は少し距離を置いて右側に立つ。

公認の恋人以外の異性と、食事のテーブルに2人きりでつかない。

......

......


はぁ~~~。学園生活の真っ暗な様子が目に浮かぶわ。

エリンシアが卒業パーティでやらかすまで、あと3年。

心してかからなくては。



「ルキノ~。制服届いたよ~。」

エリンシアが手に持っていた制服は、メチャメチャ可愛かった。早速試着する。


「どう?」

エリンシアに訪ねてみた。


「良く似合ってるわよ。でも...胸元のリボンは、こうするのよ。」

エリンシアが整えてくれた。


鏡の前に立つと、ルキノ可愛い。ありがとう。この顔を大事に使うからね。ユイナは心の中で、ルキノに礼を言った。




地獄の特訓に耐えて、いよいよ明日学園に編入する。

あぁ、辛かった。貴族のお嬢様って、やりたい放題に我儘なだけだと思っていたのだが...。

こんなに沢山の制約の中で、窮屈な生活を強いられていたなんて。この制約からはみ出せば、いつ糾弾されるかわからないのだ。少しだけエリンシアを見直した。

でも、制約から外れたから、エリンシアは処刑されたのよね?



エリンシアの豪華な内装と家具の部屋を後にし、隣の質素な部屋の侍女の部屋に戻る。別に不自由が有る訳ではない。

寧ろ、ワンルーム一人暮らしだった私には充分過ぎる程の部屋だ。3食は食べられるし、風呂やトイレもきちんとしている。


時代背景は中世っぽいのに、作者様のゆるゆる設定には感謝しかない。

ゆるゆる設定のブレブレストーリーだからこそ、私にも付け入る隙があるのではないか。


頭の中で、小説『真実の愛は永遠に』を反芻する。

エリンシアのやらかしを止める、最悪誤魔化せる様に...。

小説の内容が頭の中でグルグルと回りながら、私はいつの間にか眠りについていた。



「おはようございます。ルキノ様。」


「...。」


見知らぬ女に起こされてしまった。疲れてるとはいえ、ぐっすり眠れました。部屋に知らない人が入って来ている事にも気付かずに。私の警戒心、何処へいった?


「エリンシア様の命により今日からルキノ様のお世話を致します。リーナと申します。宜しくお願い致します。

朝食の用意が出来ております。エリンシア様も既にお待ちですので、制服に着替えましょう。お手伝い致します。」


お世話?侍女のメイド?聞いた事ないわ!

エリンシアったら、何を考えているのか。


「ありがとう、リーナ。自分で出来るから、リーナは先にエリンシアのところへ行って。」


「かしこまりました。」


リーナが静かに部屋を出たのを確認して、速攻で着替えダイニングへ向かう。


「おはよう。ルキノ。」


エリンシア、朝から無駄に爽やかだな。


「おはよう、エリンシア。リーナの事、説明してくれる?」


「ええ、ルキノ。今日から学園でしょう?それにあなた、侍女の仕事出来ないし。だから、メイドを余分に雇い入れたのよ。リーナはあなたの監視役よ。ルキノが裏切らない限り、役に立つと思うわ。」


監視役の存在をあっさり白状?頭が良いのか、悪いのか...。


「私が裏切る時は、エリンシアに直接伝えるわ。私の居た異世界では、プライバシーとソーシャルディスタンスをとても大切にする国なの。勝手に部屋に入ったり、盗撮盗聴したりがあったら、即敵になるから覚えて置いてね。私はエリンシアと仲良くしたいから。」



「そうね。ルキノの協力は、必要だものね。」

エリンシアは、不敵の笑みを浮かべながら言った。


悪役令嬢、こえーよ。ビビらずに自分の立場を確立した自分を誰か褒めて欲しい。

でもリーナがいれば、私の忙しさも半減するだろう。

小説には名前も出てこなかったモブだから、大丈夫だろう。

私は有り難くリーナに協力をお願いする事にした。




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