『逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました。』
七西 誠
第1話 プロローグ
=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=
1 プロローグ
... ...以上の罪状を以て、サティア王国に仇為す者。エリンシア、アザルトル侯爵令嬢は公開絞首刑に処す。アザルトル侯爵家当主並びに夫人以下一族郎党も同刑に処す。
宰相のガザルディア公爵が、罪状及び罪刑を淡々と言い渡す。
第2王子であるシグルド殿下は少しだけ眉根を寄せ
次期宰相の座が決まっているガザルディア公爵家嫡男のセルネオが眼鏡を取り、固く目を瞑った。
長いストレス生活が続き、2人とも大変お疲れの様子である。
その隣でヒロインは、笑ってこちらをみていた。
公開の処刑に民衆の興奮の渦が巻く。
(早くくたばれ!)
(懺悔しろ!)
罵声の中、引き回され石を投げつけられる。
処刑台に上がり、無理やり首にロープを掛けられた。
ドンッ。音と同時に床が抜け、身体が浮いた瞬間
... ...私は、目を覚ました。
※※※
「エリンシア様。お目覚めですか?」
私は、平然を装い声をかけた。エリンシアが驚くのも無理は無い。
だって私もまだ驚いている最中だから。
多分ここはライトノベル『真実の愛は永遠に』のストーリーの中だ。
『真実の愛は永遠に』とは、ライトノベルのライトと言う文字を無視したかの如く、長編も長編。
作者様も着地地点を見失っている、最初の設定を無視し伏線も回収出来ていないエタッている小説である。
ある意味タイトル通り、真実の愛が永遠なストーリーなのだが...。
あっ、私の名前は美作結菜。もうすぐ27歳の誕生日を迎える筈だったのですが。
ぼっちの日曜日、暇をもて余して図書館へ行った。
そこで高校生の頃にちょっとだけ流行った『真実の愛は永遠に』を見つけたのが運のつきだったのだろう。
世間では第1章しか知られていない小説が第12章まで並んでいた事に驚いた。
第1章のラストも中途半端で批判の声もあった中、それでも私は3章まで読んでいた。
(読んだ感想はやっぱり中途半端だった。)
でも懐かしさと興味本位で12章を手に取ってみた。
「どうせ暇だしね。」
誰にする言い訳なのか、1人呟き本を読み始めた。
小説の内容とは、エリンシアの悪行三昧。
(それ処刑されても仕方ないから。)
そう思いながら読み進めていると、エリンシアの時が巻き戻り13歳の誕生日に目が覚める。
(神様、御慈悲が過ぎませんかねぇ?)
「エリンシア様。お目覚めですか?」
侍女のルキノの言葉から、やり直しが始まるのだ。
(ルキノ、エリンシアにやっと解放されたのにな。振り出しだよ。)
私は、ルキノに同情し疲れた目を休める為に目をギュッと閉じた。脳内が映画館のスクリーンの様に、エリンシアの処刑シーンが過る。ぶるっと身震いして両腕を抱きしめた。小さく息を吐いて続きを読もうと目を開けたら
知らない部屋にいた。
西洋風のお部屋の天蓋付きのベッドには、少女が眠っていた。小説にある挿し絵の少女。
金髪のストレートロングに白い肌。少し幼いが美しい女性に成長するであろうスペックを兼ね揃えている。
「エリンシア?」特徴は合致している。
その光景を呆然と眺めていると、少女が目を覚ました。
「エリンシア様。お目覚めですか?」
取り敢えず言ってみた。
「ルキノ...。」と言って飛び起き、ドレッサーの鏡の前にへばりついていた。
(ルキノ?)私は、エリンシアを推しやり自分の姿を鏡で確認した。淡い緑の髪に淡い緑の目、ルキノの挿し絵に似ている。
「え~っ!嫌だ!私、ルキノなの?」
頭を抱えて蹲る。泣きたい気分だ。
エリンシアが再び鏡の前に戻ってきてた。
「ルキノ...。私は、今何歳なの?」鏡の方を向いたままで、私に質問を投げ掛けた。
「多分13歳の誕生日かと思います。」
鏡越しに目線を合わせ、無表情に会話をする。
「エリンシア様。その場合、私は何歳ですか?」
「ルキノは私より2歳年上よ。」
15歳…10歳以上も若返ってしまった。『ビバ転生!』...なんてやってる場合じゃないわね。
「ふっふっふ、やったわルキノ。もう一度チャンスが巡ってきたのよ。」
エリンシアが悪い笑みを浮かべながら言った。
「信じられないかも知れないけど、時が戻ったのよ。」
知ってるよ。エリンシアは時が戻ったし、私は転生したよ。あぁ一体これからどうすればぁぁぁぁぁ。
取り敢えず冷静に現状を把握せねばと尋ねた。
「エリンシア、逆行して得られたチートなど有りますか?」
「何よ。ルキノの癖に偉そうな口を聞いて!」
少し睨んだ表情で私を見る。
「エリンシアが逆行したのと同様、私は異世界から転生して来ました。」
「...あなた、ルキノじゃないの?」
「はい。姿はルキノですが、中身はユイナと言います。」
「ふーん。そうなの。まぁ良いわ。」
「いやいやいや、エリンシア。良くないでしょ?あなた先程処刑されましたよね?私も巻き込まれましたよ?あなたがヒロインを虐めた罪を私に被せて...関係無いのに、関係大有りです。このまま改善策が無いのでしたら、私は侍女を辞めてアルトン子爵家へ帰ります。没落寸前貧乏貴族ですけど、死ぬよりマシですからね。」
「えーっ困るー。これから誕生日会なのに。」
誕生日会...思い出した。今からエリンシアをドレスアップする役割を担っていた事を。だが、私に侍女のスキルは無い。
エリンシアにその事を告げると、代わりのメイドが呼ばれた。
「ルキノ...いや、ユイナ。...馴れないからルキノで良い?」
「どちらでもどうぞ。」
「ルキノ、役立たずね。」
そんな事を言う為に、呼び名を確認したのか。
思いがそのまま顔に出てしまっていた様で、メイドに気不味い思いをさせてしまった。
完璧にドレスアップされて、メイドを下がらすと
「ルキノ、いつもの魔法をかけて」と言う。
魔法?私、魔法を使えるのかな?と思いながら、エリンシアに手を翳した。
「うん。良い感じ。」
何の変化があったのだろうと、エリンシアに聞いてみる。
私の魔力は、魔力のコントロール。
魔力の源を増幅させたり、クールダウンさせる事が出来る。
バイオリズム調整程度の力って...これいる?
因みにエリンシアの魔力は、雷(いかづち)
流石は侯爵家。
私が床にめり込む程に落ち込んでいると、エリンシアが無敵の笑みを浮かべて言った。
「私も絞首刑は嫌だわ。ルキノ、あなたは私に協力なさい。じゃないと、全力で子爵家を潰しにかかるわよ。ところで、チートって何?」
このままだと、エリンシアのチートって私って事?
嫌すぎる。エリンシア、あんたは真に悪役令嬢だよぉぉぉ!
無情にもルキノの雄叫びが響く、エリンシア13歳の誕生日の出来事であった。
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