第112話 ろくこう……何だっけ?
「まさか、アーノルドがやられるとは思いませんでしたよ」
「だが……彼は『六皇剣』の中でも最弱。奴に勝ったくらいで調子に乗るなよ?」
「…………お前達は」
『虹色聖槍』のアーノルドを撃破したヴァンが廊下を進んでいくと、さらに二人の人間が現れた。
一人は演劇の衣装のような服を着た貴公子。もう一人は上半身裸で筋骨隆々とした体型のゴリラのような男。
二人はヴァンの行く手を阻んで、立ちふさがる。
「『六皇剣』が一人、『神速魔断』のクラウディオ」
「同じく、『六皇剣』の『鉄破崩玉』のオーベリーだ……死んだぜ、お前」
貴公子……クラウディオがレイピアを油断なく構え、オーベリーがニヤニヤと笑いながら厳つい拳を向けてくる。
「死んだって……俺がか?」
「当然だろ? どうやら、わかっていねえみたいだなあ」
ヴァンの問いに、オーベリーがニヤつきながら答える。
「俺様は『六皇剣』の中で最強の男。この拳は鉄を破り、岩を砕く。そして、こっちにいる優男は最速の男だ。最強と最速がコンビを組んで立ちふさがっているんだぜ? この状況から、いったいどうやって生き残るって言うんだよ?」
「大人しく首を差し出すのであれば、苦しむことなく殺して差し上げますよ? 嬲るつもりはありませんから、抵抗せずに死んでください」
「…………」
ヴァンが無言で大剣を構えた。
相手が誰であろうと、退くわけにはいかない。逃げるわけにはいかない理由があった。
「妹ちゃんと約束した……皇帝を連れて帰るように。だから、邪魔をするなら殺す」
「イモウトチャン……その人物が貴方の主なのですか?」
「ハッ! 馬鹿が、そんなに苦しみたいのなら嬲り殺しにしてやるよお!」
「いきますよ……我が剣技に酔いしれなさい!」
クラウディオとオーベリーが同時に床を蹴った。
全身から殺気を放出して、ヴァンめがけて襲いかかってくる。
「キエエエエエエエエエエエエエエエエエエイッ!」
「チェストオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
「…………」
ヴァンは目を細めて、左右から襲いかかってくる敵を迎え撃った。
まず、右側からレイピアで斬りかかってくるクラウディオ。
最速の名に違わぬとんでもないスピードで、幾度となく刺突を繰り出してきた。
「フンッ!」
だが……そんな無数の刺突をヴァンは斬撃一つで斬り伏せた。
右手で大剣を振り抜いて、先ほど戦ったアーノルドと同じように身体を両断する。
確かに速かったが、速度だけならばヴァンの方が上だった。当然ながら、より速いヴァンの剣の方が先に命中する。
「なあっ!?」
続いて、左側から殴りかかってきたオーベリー。
岩のような拳をヴァンの顔面に叩きつけようとしてくるが……左手でその拳を受け止めた。衝撃によって大理石の床に大きなヒビが入るが、ヴァンの左手は痺れただけである。
「そ、そんな……有り得ない。俺の拳を受け止めるだなんて、そんな……」
「仲間が死んだことよりも、自分の攻撃が通用しなかったことの方が大切なのか? 情のない男だな」
「ガッ……」
ヴァンが左手で拳を受け止めたまま、右手の大剣でオーベリーの首を刎ねた。
よほど拳を受け止められたことがショックだったのか、避けもしなかったので楽に殺すことができた。
「それと……気づいているぞ?」
「ッ……!?」
そして……足元の影から飛び出してきた刃を足で受け止める。
針のように細い刃を繰り出してきたのは、影の中に隠れていた黒ずくめの人物だった。
まるで黒子のような姿をしているが、察するに闇の魔法で影に隠れて不意打ちの機会を窺っていたのだろう。
「お前は?」
「え、あ……その……」
「早く答えろ」
「ヒエッ……」
黒ずくめの頭を掴んで低い声で恫喝すると、ビクリと肩を跳ねさせる。
「ろ、『六皇剣』の一人です……『影中絶殺』のジェイと申します……」
「そうか……死ね」
「グギャ……」
そのまま、壁に頭部を叩きつけた。
タマゴが潰れるような鈍い音を鳴らして、ジェイと名乗った黒ずくめの頭部が粉々になる。
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