第110話 焼いて、倒すよ
「邪魔する兵士を殺せ。財貨を奪え。重要施設は焼却せよ」
帝都へと侵入したヴァン・アーレングスは後に続く兵士に、淡々と命令する。
侵入に成功した兵士は三百ほど。数こそ少ないが、いずれもアーレングス軍において最精鋭とされる兵士達だった。
一人一人が兵士十人以上に相当し、ヴァンと一緒にいくつもの戦いを潜り抜けてきた戦友である。
「兵士の指揮はお前が執れ、ユーステス」
「ハッ! 承知いたしました!」
「俺は征く。後で合流するぞ」
ヴァンが腹心の部下に後を任せて、颯爽と立ち去っていく。
ユーステス・ベルンが主君の命令に力強く答えて、兵士を指揮して王命を実行する。
「よーし、お前ら! 計画通りだ、かかりやがれ!」
「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオッ!」」」」」
アーレングス兵は民間人に直接攻撃することはしなかったが、帝国兵は片っ端から討ち取っており、事前に調べておいた拠点も容赦なく潰していく。
武器や兵糧の保管庫、兵士の武具を製作している工房、兵士の詰め所などを徹底的に破壊して焼やしていった。
「おのれえええええええっ! よくもおおおおおおおっ!」
「異国人め! 栄光ある帝国に逆らうとは何事だ!」
「ウルサイ! さっさと死ね!」
プライドの高い帝国兵はギャンギャンと騒いでいたが、混乱している彼らの抵抗は弱いものだった。
帝都に残っているのは後詰の鎮護兵。前線に出ている兵士ほど士気や練度は高くはない。精鋭であるアーレングス王国の兵士には及ばなかった。
「ギャアアアアアアアアアアアアアッ!」
「や、やめ……!」
「逃げろオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「ちょっと突いただけで総崩れ。まったく……軽い仕事だな」
帝国兵を蹴散らしながら、ユーステスがつまらなそうに鼻を鳴らす。
「流石は我らが参謀。えげつない作戦を考えてくれるよな」
帝国兵を斬り捨てるユーステス……その脳裏には、主君であるヴァンの妹・モアの顔が浮かんでいた。
今回の奇襲は当然のように、モアが提案してきたものである。
シングー帝国に占領されたゼロス王国、そこで民の反乱を誘発させて、帝国本国から援軍を送らせる。同時にアーレングス王国東の国境にあるアームストロング要塞に兵士を集めて、敵の注意を引き付ける。帝都をさらに手薄にさせる。
そして……乾坤一擲の一撃。
南の大森林を通っての奇襲である。
アーレングス王国は獣人を屈服させて、南の大森林までを支配下に置いた。
これにより、南側のルートを通って帝国内部に侵入できるようになったのだ。
ヴァンは獣人の案内を受けて、少数精鋭の兵士と共に帝国内に侵入。そして、帝都に奇襲を仕掛けた。
「飛べる鳥獣人、隠密行動に長けた猫獣人を先に飛び込ませるのも、全て計算通り……まさしく、悪魔のような戦略だな」
もしもモアが敵だったかと思うと、ゾッとしてくる。
ヴァンは類まれな英雄であるが、モアだって十分に英雄だ。『一日千里、王佐の才』とは彼女のような人間をいうのだろう。
「さて……俺がやるべきことはやったな。後は任せたぜ、我らが大将」
ユーステスが皮肉そうに笑って、ヴァンが向かった先にある皇帝の居城を見上げたのであった。
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神撃のアイシス 悪役令嬢の娘ですが冒険者になりました
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