第109話 帝都に攻め込むよ

「城門を開けろ!」


「逃げろ! 故郷に帰るんだ!」


 帝都の城門に大勢の奴隷が押しかける。

 火災の混乱に乗じて逃げ出した彼らは、内側から城門を開けて、外に脱出しようとしていた。


「おい、やめろ!」


「開けるんじゃない! 殺されたいのか!?」


 城門を守っていた兵士達が必死になって、奴隷を押し留めようとする。

 だが……多勢に無勢である。

 ゼロス王国、西の国境それぞれに派兵をしているせいで、帝都にいる兵士はすっかり少なくなっていた。

 さらにこの火災である。兵士達は火消しと暴徒鎮圧に駆り出されており、城門や城壁を守る余裕は無くなっているのだ。


「奴隷ごときが逆らうな! 身の程をわきまえろ!」


「ウルセエ! 俺達は故郷に帰るんだよ!」


「奴隷なんてやってられるか! 俺達は家畜じゃない。人間だ!」


 無理やりに帝国に連れてこられ、馬車馬のようにこき使われていた奴隷達。

 彼らはずっと不満を募らせていたが、ここにきてそれが爆発したようである。


「兵士を殺せ! 武器を奪え!」


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


「く、クソ……ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 一方は訓練を受けた兵士、もう一方は丸腰の奴隷。

 お互いの戦闘能力には大きな隔たりがあったが、多勢に無勢である。

 帝都には植民地から大勢の人間が連れてこられて、奴隷にされていた。全員とは言わないが、その何割かが押し寄せてきているだけでも抑えきれない。

 兵士達の奮闘も虚しく、城門が内側から開け放たれてしまった。


「こ、この……」


「開いたぞ!」


「よし、逃げろオオオオオオオオオオオオオ!」


 奴隷達が嬉々として逃げていく。

 残った兵士達は悔しそうに歯噛みするが……奴隷に構っていられるような場合ではない。

 逃げた彼らを追いかけるよりも、帝都内部の混乱を収めなければ。


「へ……?」


「今だ……突撃イイイイイイイイイイイイッ!」


 だが……そこでさらに予想外の事態。

 城門の外側。隠れていた十数人の男達が飛び出してきて、城門を抑えたのである。

 土を被ってカムフラージュしていた男達はいずれも屈強な体格で、頭部に角のような物が生えていた。

 大森林にいた獣人の一種族……牛獣人である。


「なっ……何だ、コイツラは!?」


 帝国兵が城門を抑えている牛獣人を引きはがそうとするが、屈強な彼らはビクともしない。武器で斬りつけるも……牛獣人は屈強さだけならば大森林でもトップである。硬い筋肉に阻まれてしまった。


「モオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


「今だあ! 中に入れえ!」


 牛獣人が叫ぶ。

 すると……離れた場所に潜伏していた一軍が城門に向けて突撃してきた。


「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオッ!」」」」」


「なっ……!」


「あれは……どこの軍隊だ!?」


 やってきたのは、五百人ほどの兵士だった。

 軍旗は掲げておらず、どこに所属した兵士かはわからない。


「馬鹿な……まさか、この距離まで近づけてしまうとは……!」


「早く城門を閉めろ! 抑えている連中を殺して……ギャアッ!」


 遠くから投擲された槍が帝国兵に突き刺さる。

 倒れた兵士の横を、騎馬に乗った男が悠然と駆け抜けて城門をくぐっていく。


「ご苦労だった。褒めてつかわす」


 硬い声で牛獣人を労い、帝都に侵入したのは黒髪の屈強な男性。

 アーレングス王国が国王にして英雄……ヴァン・アーレングスであった。






――――――――――

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こちらの作品もよろしくお願いいたします!


神撃のアイシス 悪役令嬢の娘ですが冒険者になりました

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