第107話 帝都の繁栄
大陸屈指の大国であるシングー帝国。
その中心にある帝都には大勢の人々がいて、街を行きかっていた。
大陸屈指の大都市であるその都は大きな建物がいくつも並んでおり、人口も非常に多い。
都の周囲は高い高い城壁によって囲まれているため、外敵も易々と侵入できないようになっている。
「ねえ、御存じ? ガイ殿下がどこかの国に遠征に行ったそうだけど……あまり上手くいっていないようよ? 皇帝陛下が援軍を送ったんですって」
「あら、心配ねえ。殿下はご無事なのかしら? 最近、やけに街中にいる兵隊さんが少ないと思ったら……そのせいなのねえ」
街の大通りでは主婦が井戸端会議を交わしている。
国が違えど、この年頃の女性が噂好きなのはどこも同じ。口々に噂話に興じていた。
「それにしても……嫌ねえ、辺境の蛮族は。どうして、帝国に逆らったりするのかしら?」
「不思議よねえ。帝国の下に着くことができるなんて、そんな幸せなことはないのに。野蛮な国にはそんな名誉も理解できないのかしら?」
帝国本国で生まれ育った人間にとって、シングー帝国が世界の頂点に君臨しているのは太陽が東から昇るのと同じくらい常識的なこと。
他のあらゆる国々は全て帝国の属国になるべきであり、帝国人以外の民は等しく奴隷になるべきなのである。
そんな考え方を肯定するかのように……町の通りには帝国人以外にも、裸同然の格好をした異国人の姿がある。
異国人はいずれも植民地から連れてこられた奴隷であり、首輪や手枷を付けられていたり、身体に鞭で打たれたような痕があったりする。
奴隷はいずれも希望を失った死んだ目になっており、荷運びなどの労働を強いられていた。
「そういえば……私の家、新しい奴隷を買ったのよ。南の植民地から連れてきたもので、なかなか働き者なのよ」
「あら、羨ましいわねえ。ウチにも奴隷がいるのだけど、身体も小さくて使えないのよね。まだ子供だから仕方がないけど……この間も寒気があるとか体調を崩していたから、鞭で叩いてあげたわ」
「新しい植民地ができるということは、また奴隷が安く売られるのかしら?」
「いくら奴隷が安くなっても、税金が上がったらねえ……あたらしい皇妃様? 前の皇妃様が追い出されてから、税金が上がる一方じゃない」
「噂では、皇帝陛下に取り入った若い寵妃が贅沢をしていて、そのせいで税金が上がったとか…………あら?」
ふと、井戸端会議をしていた主婦が顔を上げた。
「あれは……鳥かしら?」
空に大きな影が横切ったのだ。
それは鳥なのだろうが、やけに大きい。
「まさか……魔物かしら?」
「帝都には結界の魔法がかけられているはずよ。魔物なんて入ってくるわけないじゃない」
「そうよねえ……だったら、あの鳥は……?」
主婦が疑問を口にした次の瞬間である。
街のあちこちで、巨大な爆発音が響き渡った。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
「うわあああああああああああああああああああっ!?」
「何だ、何が起こってるんだ!?」
帝都のあちこちから、怒号と悲鳴の声が響き渡る。
気がつけば空をいくつもの影が飛んでおり、頭上から何かを街中に投げ込んでいた。
投げ込まれた球体上の何かが音を鳴らして破裂して、真っ赤な炎と黒煙を上げている。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「今だ……逃げろ、みんな逃げるんだ!」
「おい、奴隷! 逃げるな、俺を助けろオオオオオオオオオッ!」
「知るか! 逃げろオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
爆音と悲鳴だけではなく、人間の争う音も混じってくる。
繁栄を享受していた帝都は、たった数分間のうちにコインが裏返るようにして地獄の様相と化したのであった。
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神撃のアイシス 悪役令嬢の娘ですが冒険者になりました
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