第105話 二人は姉妹

 帝城の廊下をフィーリアとリィンが早足で歩いている。


「待ちなさい! 待てって言っているでしょう!」


「もう……ウルサいですよ。姉さん・・・


 ついてくるリィンに、フィーリアが鬱陶しそうに振り返った。


「今の私はあなたの母親なんですからね。いつまでも姉みたいな顔をしてお説教なんてやめてください」


「説教をされるようなことをしている貴女が悪いんでしょう……マリ!」


「いつまでも、前の人生を引きずっているですかあ? ユリ姉さん」


 二人が立ち止まり、廊下の真ん中でにらみ合う。

 フィーリアとリィン……二人は転生者であり、前世の記憶があった。

 前の人生において、二人は血の繋がった姉妹だった。同じ両親から生まれて同じ家で同じ食事を食べて生きてきた。

 だが……二人の性格は正反対だ。

 姉のユリ……リィンは真面目で勤勉な性格。成績優秀で面倒見が良く、女友達が多かった。

 妹のマリ……フィーリアは奔放で自由な性格。社交的ではあったが周りにいるのは男友達ばかり。女子からは敬遠されていた。


 そんな姉妹は当然のように仲が悪く、前世では喧嘩ばかりだった。

 何度も何度も衝突して、言い合いして、時には取っ組み合いまでして……最終的に、それが原因で二人とも命を落とすことになった。

 ユリと交際していた彼氏をマリが寝取ったことで、決定的に二人の中はこじれた。

 罵り合い、掴み合い、そのまま二人揃って階段から転げ落ちた。

 そして……二人そろって死んでしまったのである。


「お互い、新しい人生を歩んでいるんです。もっと肩の力を抜いてエンジョイしたらどうですかあ」


「……貴女が私の前に現れなければ、自分の人生を謳歌していたわよ」


 リィンが悔しそうに奥歯を噛み締める。

 リィンはシングー帝国の皇女に生まれ変わり、新しい人生を歩んでいた。

 前世のことは忘れて、リィン・シングーとして大勢の人々と人間関係を築いていたはずだった。

 それなのに……突如として、フィーリアが現れた。国王の愛妾として。

 フィーリアは瞬く間に愛妾から寵妃となり、皇妃を追い出して好き勝手に振る舞うようになっていた。

 おまけに、リィンの婚約者にまで手を出してきて、人生を踏みにじられてしまった。


「…………」


「そんなに睨まないでくださいよ、姉さん。一緒にお風呂でも入ります?」


「嫌に決まっているでしょう! ああ、もう……これ以上、好き勝手にやるようなら私にも考えがあるからね……!」


「怖いですよう。フィーたんが泣いちゃったらどうするんですかー? パパに言いつけちゃいますよー?」


「ッ……!」


 リィンがワナワナと拳を震わせる。

 ここが帝城の内部でなければ、間違いなく手を出してしまっただろう。


「……忠告はしたわよ」


 呪いの言葉のように捨て台詞を残して、リィンは大股で廊下を歩いて行ってしまった。


「まったく……ユリ姉さんってば、本当に仕方がないんだから」


 そんな姉……現在の義娘の背中をフィーリアは微笑ましそうに見送ったのであった。






――――――――――

限定近況ノートに続きのエピソードを投稿しています。

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