第101話 黒幕の影
ゼロス王国に侵攻を行ったシングー帝国であったが、その統治は上手くいっていなかった。
王都を占領して、第二王子ジークオッド、第三王子ジェイコブを撃破したまでは良かったのだが……その後、各地で反乱が勃発。
蜂起した民衆の鎮圧にとにかく手を焼いている。
本来、帝国の戦力があれば民衆の反乱ごとき、問題なく鎮圧できるはずだった。
問題は反乱の数である。とにかく広い範囲、たくさんの場所で同時に事が起こったため、対処しきれていないのだ。
ただの民衆の反乱と侮るなかれ。
兵士よりも民の方が数は大きく、棒切れを振り回して無秩序に暴れているだけでも脅威である。
シングー帝国第一皇子ガイ・シングーは対処に追われて、頭の血管が弾けかねないような苛立ちに襲われていた。
「クソッ! 予定では、今頃アーレングス王国への進軍を始めていたというのに……下賤な民が余計な手間と時間を取らせおって!」
とある町。かつて領主がいた屋敷。
屋敷の主人であった領主一族はすでに帝国兵によって殺されており、現在は帝国軍の拠点の一つとなっている。
ガイは今まさにとある町の反乱を鎮圧したばかりである。
反乱そのものは押さえつけることができたのだが、その際に少なくない民を殺害してしまった。
ガイは征服した植民地の人間の命に価値など見出していないが、労働力が減るのはいただけない。人が減れば生産力が減り、吸い上げることができる税金が減ってしまうのだから。
「ここまで手を煩わせてくれたのだ……もはや、この国の民は全員奴隷落ちにでもせねば気が済まぬぞ……!」
ガイは怒りのままに宣言する。
シングー帝国はいくつもの国々を征服し、植民地にしてきた。
植民地への対応は様々である。早い段階で降伏してきた土地の人間には帝国人と同じとは言わないまでも、不自由をさせない生活の保障をしている。
だが、激しく抵抗した土地の人間への扱いは酷い。土地を奪って奴隷落ちさせ、帝国本土に送って馬車馬のように働かせていた。
おそらく、ゼロス王国の人間達も同じような扱いを受けることだろう。
「殿下、この近隣での反乱はおおむね鎮圧することができました。しかし、まだ周りの土地では……」
「そんなことはわかっている! ああ、クソ……どうして、こんなことに……!」
ガイが苛立たしそうに爪を噛んだ。
次期皇帝として華麗に勝利を収めるはずだったのに、どうしてこんな泥沼に陥ってしまったのだろうか。
「まさか……誰かが仕組んだのか?」
ザワリと背筋が粟立つ。
背後で糸を引いている人間がいる……それはこれまで考えなくもなかったが、多忙さにかまけて考察する暇がなかった。
「反乱を手引きしている人間……いったい、何者が……?」
真っ先に思い浮かべたのは、ゼロス王国の王族である。
だが、すぐに「違う」と首を横に振った。
ゼロス王国の王族の大部分は処刑した。第二王子ジークオッドは部下を見捨てて一目散に逃げ出していたが、あの愚王子にここまでのことをやらかすことは不可能である。
(それに……これほどの策略、一朝一夕でできるものなのか……?)
もしかすると、黒幕はずっと前から準備をしていたのかもしれない。
ゼロス王国にあるいくつもの町々に人を送り、蜘蛛が糸で巣を作るかのように反乱の準備をさせて、一斉蜂起するように仕向けていた。
シングー帝国がゼロス王国に侵攻してから……あるいは、それよりも前から。
いずれシングー帝国がゼロス王国を制圧することを見越して、帝国軍に立ち向かわせるために民衆を煽動していた人間がいるのではないか。
「いったい、誰が……?」
「殿下! ガイ皇子殿下!」
「今度は何だ! また民衆の反乱か!」
叫びながら部屋に飛び込んできた兵士に、ガイが苛立って叫んだ。
すると、兵士は息を切らしながらも顔を歪めて報告する。
「は、反乱は反乱ではあるのですが……王子です」
「は?」
「ゼロス王国の王子が……第五王子ジェインズ・ゼロスを名乗る少年が挙兵しました。兄ジェインズの遺臣の貴族や騎士をまとめ上げ、蜂起した民衆を取り込んで我が軍に攻撃を仕掛けています……!」
「~~~~~~~~~~~~~~~ッ!」
兵士が言い放った言葉に、ガイは顔を真っ赤にして声にならない怒声を上げたのであった。
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