第99話 反乱、氾濫、叛乱
国王。貴族。町長。代官。村長。
将軍や守護地頭。市長や知事、大統領に至るまで。
時代や土地、世界は違っていても、人の上に立つ人間にとって共通する敵……それは外敵ではなく、治めている『民』である。
為政者は常に民が反逆して、盾突いてくることを恐れなくてはならない。
民一人一人は大した力はない。軍隊を持っている権力者にとっては、石ころのようなものである。
だが……何千、何万、それ以上の小石が一斉に動き出して襲いかかってきたら、いったい誰にそれを止められるだろうか。
実際、民のクーデターによって滅亡した国は少なくない。
大規模な革命か、それとも穏健な政権交代かの違いはあれど……民とは弱者でありながら、為政者にとって最大にして最強の敵なのだ。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
「負けるな! 帝国軍を追い返すんだ!」
「返せよ、俺達の土地を返せよお!」
旧・ゼロス王国の各地で人々が蜂起し、帝国軍の兵士達に襲いかかる。
民が手にしているのは農具や木の棒、包丁や果物ナイフなどの武器とはいえないようなものである。
兵士がその気になれば、容易に撃退することができる……数が少なければ。
「クソ! 植民地の蛮族が!」
「大人しくしろ! コラ、石を投げるんじゃない!」
自分達の十倍以上の民衆が襲いかかってきて、帝国兵が泡を食ったように怒声を上げる。
いくら声を張り上げても、槍を振るっても、民衆は散るどころかヒートアップするばかりだ。
いくら訓練された兵士といえど、これは堪ったものではなかった。
「おい、他の町の兵士に応援を求めろ!」
「ダメです……近隣の町々でも反乱が起こっていて、それどころではないようです!」
「な……馬鹿な! 何で一斉に反乱が起こっているんだよ!」
帝国兵が涙声で叫んだ。
民による反乱は旧・ゼロス王国の各地で起こっていた。
町を統治していた帝国兵は時を同じくして生じた反乱に対処できず、後手に回る一方となっている。
「クッ……! このままでは不味いぞ……町を奪い返されてしまう……!」
制圧した町を兵士でもない民衆に奪還されるなど、赤っ恥もよいところである。
そんなことになったら、統治していた兵士達も責任を取らされることになるだろう。
「仕方がない……見せしめにいくらか殺しても構わん!」
兵士達は苦渋の決断を下した。
シングー帝国は多くの土地を植民地として支配しているが、滅多なことがない限り民を殺めることはない。
慈悲などではない。民が減ることで生産力が下落することを避けているだけである。
しかし、ここまで反乱が過熱してしまえば、税金が減るだ増えるだを気にしていられる様子はなかった。
「鎮まれ! 鎮まらねば殺すぞ!」
「お前ら、命が惜しくば武器を捨てて投降しろ!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
帝国兵に刺された民が悲鳴を上げる。
反逆する民衆に対して、武力制圧を仕掛ける帝国軍。
血で血を洗うような戦いは旧・ゼロス王国の各地で起こり、野火が燃え広がるようにして混乱が広がっていったのである。
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