第97話 生きていた第一王子
突如として、目の前に現れた第一王子ロット・ゼロス。
死んだはずのその人物の姿を目にして、ジェインズは幽霊でも目にしたように顔を蒼白にする。
「ろ、ロット兄上……いや、姉上? まさか、生きておられたのですか?」
「ああ、見ての通りだ」
ロットが淡々として答えて、周りを見やる。
「君を追いかけている帝国兵はすぐに掃討されるだろう。安心してくれ」
「は、はい……それにしても、アーレングス軍に殺されたと聞いていましたけど、どうしてここに……?」
「ああ、君は何も知らないのだな」
ロットが皮肉そうに笑い、首を横に振った。
「確かに、私はアーレングス王国に攻め込んで敗北して捕虜になった。だが……その後、敗走する我が軍を殲滅したのはジークオッドだ。奴が王位を手に入れるために、第一王子である僕が邪魔だったんだろうな」
「…………」
吐き捨てるように言うロットを、ジェインズは呆然として見上げた。
ロットと配下の兵士が残らず戦死したと聞いて、一兵も帰ってこないだなんて有り得るのかと疑問に思ったものである。
だが……まさか、第二王子ジークオッド・ゼロスが同士討ちまでしたとは思わなかった。
「兄は……ジェイコブ兄上は知っていたのかな……?」
「そりゃあ、知っていただろう。国内で起こったことだからな」
「…………」
「ジェインズにとっても、私が消えたのは都合が良かったのだろうな。政敵が馬鹿王子だけに絞られる」
「ご、ごめんなさい……」
ジェインズは顔を引きつらせて、謝罪の言葉を口にする。
ロットの目が冷たい理由がわかった。
第三王子ジェイコブ・ゼロスは同士討ちにこそ加担していなかったが、ジークオッドの暴走を黙殺していたのだ。
「……まあ、いい。君を責めても意味がないからな」
ロットが自分を落ち着かせるように、ゆっくりと首を振った。
「特に差支えがないようなら、君の身柄を保護させてもらう……問題ないだろう?」
「ウグッ……」
ジェインズが押し黙る。
拒否をすれば、ジェインズはまた逃亡生活に戻ってしまう。
だからといって、ロットの下にいることが安全であるとは限らない。
ロットは少なくとも、ジェインズの同腹の兄であるジェイコブに対しては恨みを持っているようだ。
ジェインズを助けようとしているのだって、決して仏心が動機ではあるまい。何か理由があるはずだ。
「ジェインズ殿下……どうされますか?」
「ぼ、僕が決めるの……?」
護衛の言葉に、ジェインズが声を裏返らせた。
「当然でしょう。貴方自身のことですよ?」
「へ……え……あ……」
護衛の冷たい言葉に、ジェインズは困惑する。
これまで、ジェインズは兄ジェイコブに言われるがままに生きてきた。
王位継承権こそ放棄していないものの、自分が王位を継げるだなんて少しも思ってはいない。
将来設計についても、王になったジェイコブを支えることができれば……とぼんやりと考えていた。
「……どうするのだ?」
「……どうするんですか?」
「ウウッ……」
ロットと護衛から同時に詰められて、ジェインズは涙目になった。
決断力のない未熟な少年はしばし視線をさまよわせて、震える声を口からこぼす。
「す、好きにしてください……」
「わかった」
「自分が彼を連れていきます。絶対に逃がさないのでご心配なく!」
ロットは蔑むような目をしてから、ジェインズを保護下に置くことにした。
護衛は少しも抵抗することはなく、むしろロットの側についていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます