第94話 女海賊、沈没する

 モアの提案を受けて、ドラコ・オマリはヴァンの愛人になることを了承した。

 そうと決まれば、話は早い。

 その日の夜、ヴァンは身支度を整えてドラコ・オマリが軟禁されている貴族牢に向かった。


「うーん、緊張するなあ。まさか船長を抱くことになるなんてね」


 初めて会った時、海で拾ってもらったときには、そんなことになるとは思ってもみなかった。

 ドラコ・オマリを女性として見ていないわけではない。

 健康的に日焼けした小麦色の肌。薄着の服を押し上げている胸や尻は、なかなかに扇情的である。


「おっぱいも大きいし、ちゃんと美人さんだよね。言葉遣いはちょっと乱暴だけど……獣人の人達よりもちゃんとしている」


 などとつぶやきながら廊下を歩いていき、そこにたどり着いた。

 貴族牢の前には警備の兵士が立っており、ヴァンを見ると頭を下げてきた。


「ご苦労」


「ハッ」


 兵士が貴族牢の鍵を開けて、ヴァンを中に招き入れた。


「失礼する」


「い、いらっしゃい、ませです……お待ちしてた、ました。国王陛下」


 ヴァンが部屋にはいると、ドラコ・オマリが床に正座をして出迎えた。

 両手をついて、深々と頭を下げてくる。


「ほ、本日は、その……よろしく、しますです」


「頭を上げろ」


「は、はい……」


 ドラコ・オマリが恐る恐るといったふうに顔を上げる。

 緊張に強ばった顔。大海原を航海しているときに見せた自由奔放な表情とは、真逆なものだった。


「えっと、その……こ、このたびは私を愛人にしていただき……」


「緊張しなくても良い。いつも通りに話してくれ」


「それは、でも……」


「俺は君のクルーだ。一緒に海を旅した仲だ。そのつもりで接してくれ」


「…………」


 その言葉にドラコ・オマリはしばし悩んでいたが、やがて立ち上がった。ヤケクソのようにどっかりとベッドに座り、足を組んでふんぞり返る。


「まったく……アンタが国王だなんて思わなかったよ。こうして、愛人になるとも思わなかった」


「すまん……」


「いいや、話せない状況だったってのはわかる。話してもらったとしても、アタシ達も信じなかっただろうね」


 海で漂流していた男が実は一国の国王だなんて、物語の中の話である。

 ドラコ・オマリ達も、ヴァンがそんなことを言い出したら笑い飛ばしていたことだろう。


「だから、許すさ。仲間を見逃してくれたことも感謝するし、アンタに抱かれることも依存はない……好きにしたらいいさ」


 ランプの薄明かりの中、ドラコ・オマリが照れたようにプイッと顔を背けた。

 そこで初めて、ヴァンはドラコ・オマリの首から下に目を向けたのだが……彼女はなかなかにそそる格好をしている。

 スケスケの赤い下着。エキゾチックなそれは小麦色の肌とマッチしており、まるで異国の踊り子のようだった。


「ちなみに……経験はあるのか?」


「……さあね。身体に聞いてみな」


「そうしよう」


「ッ……!」


 ヴァンが奪うようにドラコ・オマリの唇を奪った。

 反射的に相手を突き飛ばそうとする腕を取り、そのままベッドに押し倒す。


「ンン~~~~~~~ッ!?」


 彼女が経験者であったかどうかは、あえて言及しないが……女海賊の熟れた肉体はヴァンを楽しませるには十分だった。

 朝までしつこいくらいに絶頂させられ、女海賊ドラコ・オマリは快楽の深海へと沈没していったのである。

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