第91話 海賊、討伐したよ
海賊退治から、そのまま漂流してしまったヴァンであったが……どうにか、配下の騎士と合流することができた。
アーレングス王国の西海を騒がせていた海賊達も、この一件によって鳴りを潜めることになる。
『赤鬼海賊団』、『ガドナ水軍』はどちらも壊滅。船員はことごとく海の藻屑となった。
『海風の一味』は怪物に襲われながらどうにか死者は出なかったものの、船を失い、そのままアーレングス王国の海軍に捕縛されてしまう。
猛者と称された海賊達がいなくなったことで、他の中小の海賊も慌ててアーレングス王国の海域から逃げ出した。
ヴァンが海賊征伐に乗り出して、わずか一週間での解決。
すっかり平和になった西の海に、人々は改めてヴァン・アーレングスという男の卓越した軍才に感じ入ったのである。
〇 〇 〇
「こ、国王陛下とは露知らず、無礼をしたぜ……じゃなくて、しました……です」
縄を打たれて甲板に上げられた『海風の一味』……その船長であるドラコ・オマリが、頭を床につけんばかりに下げる。
ヴァンにとっては、ドラコ・オマリと仲間達は漂流していた時に拾ってくれた恩人。数日の航海を共にした仲間であったが……それはそれである。
彼女達が海賊であることに変わりはなく、捕まえないわけにはいかなかった。
「今回のことは全部全部、アタシの責任だ……だから、手下と島の連中は見逃してやってくれ……!」
「船長……!」
「そんな……俺達も同罪だ!」
「地獄までだって付き合わせてくれよ!」
全ての罪を被ろうとするドラコ・オマリに、手下の海賊達が涙を流して声を上げた。
「馬鹿言うんじゃないよ! アンタ達まで首を吊られることになったら、誰が島の子供達を養っていくんだい!?」
「それは……でも……!」
「あの子達を飢え死にさせるようなことはあっちゃならないんだよ! 海賊として生きることを決めた日から、アタシは棺桶に片足を突っ込んでいるんだ! とっくに覚悟はできているよ!」
「船長……!」
「ウウッ……せんちょお……」
「………………困るな」
涙ながらに人情劇を繰り広げている海賊達に、ヴァンが眉を『ハ』の字にした。
ヴァンとしては彼らを殺したくはない。見逃してやっても良いとすら思っている。
だが……それは国王として良くないということも、何となく理解していた。
(妹ちゃんが言ってたよね。しんしょーひつばつ、泣いてバショクを斬る、だったっけ?)
前者は手柄には褒美、罪には罰を与えなければならないという意味。後者は人の上に立つ人間は、情に流されて甘い判断してはいけないという意味。
ドラコ・オマリらは気の良い連中ではあるものの、海賊として被害を出しているのは事実。
友達だからと見逃していては周りに示しがつかなかった。
「ヴァン陛下……如何いたしましょう」
「…………」
だが……それでも、ヴァンは感情を持った人間である。
配下の騎士……レイクスが問うてくるが、即答することはできなかった。
情に流されないというのは君主の心得であったが、お題目通りに決断できるかどうかは話が別。
誰だって友人や親類を斬りたくはないし、国王だって人間には違いないのだから。
「女海賊ドラコ・オマリの死にざま……しっかりと目に焼き付けておくんだよ!」
「「「「「船長オオオオオオオオオオオオオオオッ!」」」」」
そんなヴァンの内心を露知らず、『海風の一味』の海賊達はワンワンと声を上げて盛り上がっている。
そんな彼らの姿にますます胸が締めつけられるような気持ちになり、ヴァンは眉間のシワを深めたのであった。
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