第87話 片付いたよ

 海賊船に飛び込んだヴァンはガドナ水軍のリーダーを踏み潰し、圧死させてしまった。

 私掠船である彼らのボスには、それなりに聞かなくてはいけないことがあったはずだが……覆水盆に返らずである。

 死んだ人間は生き返らない。ヴァンは切り替えて周りの敵に目を向ける。


「この野郎オオオオオオオオオオオオオオオッ!」


「船長の仇だ! 殺せえ!」


 ガドナ水軍に所属している海賊達が武器を手にして、次々と襲いかかってくる。

 殺気を爆発させている周りの連中を見やり、ヴァンが困った様子で首を振った。


「すまん」


 船長を踏み潰しておいて、すまんで済まされる問題ではない。

 もちろん、海賊達もそれで矛を収めることなく斬りかかってくる。


「死にやがれ!」


「ワザとではないんだ。まあ、許してくれ」


「グハッ!」


 謝罪をしながら、ヴァンは先頭で斬りかかってきた海賊の頭部を殴る。

 裏拳がめり込んだ顔面が容赦なく破壊された。

 海賊が倒れるが……次の海賊がサーベル状の剣を手にして、斬りかかってくる。


「このおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


「フウ……困ったな」


 やれやれと思いながらも、ヴァンが襲いかかってくる海賊達を片付けていく。

 殴り、蹴り、叩き、潰し、裂いてちぎってもいでいった。

 それなりに荒事には慣れているようだが、一人一人はそれほど強くない。

 ヴァンが拳を振り、足を薙ぐたびに肉塊となっていく。


「怒らせてしまったのは予想外だが……考えてもみれば、向こうから殺されに来てくれるのだから楽な仕事だな」


 ヴァンがその船に乗っている海賊達を全滅させるのに五分とかからなかった。

 勇猛にも船長の仇討ちをしに来る者も多かったが、中には海に飛び込んだり他の船に移ったり、逃げる者もいた。


「チクショウ、敵わねえ!」


「逃げろ! 引き上げろ!」


 ガドナ水軍の他の船が勝てないと判断して、撤退しようとする。

 二隻の船がヴァンのいる船から遠ざかり、逃げていった。


「ああ、困ったな。このままでは逃げられてしまう」


 ヴァンはそれほど困った様子もなくつぶやいて、甲板に転がっていた剣を手に取る。


「フンッ……!」


 そして……投げた。

 遠ざかっていく船の一方に向けて剣を投げつけると、マストが真っ二つに切り裂かれる。


「「「「「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」」」」」


 倒れたマストに潰されて、海賊達の悲鳴が聞こえてくる。

 マストによって甲板が破壊され、沈没とはいかないまでも船が停止する。


「うん、これでは沈まないか」


 そのまま海の藻屑かと思いきや、存外に粘っている。


「そうか、壊すのなら上ではなくて下だな」


 ヴァンは今度は槍を手に取って、再び投擲する。

 投げた槍は放物線を描くことなく真っすぐ飛んでいき、無事な方の船の後壁に命中。

 そのまま斜め下まで突き抜けて、船の底に穴を開けた。


「「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」」」」」



「おお、今度は沈みそうだな」


 やはり、底を破壊するのが正解だったらしい。

 船底から浸水した海賊船は、そのまま海の中へと旅立っていったのである。

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