第86話 突っ込んだらやっちまったよ
「お邪魔」
ヴァンはガドナ水軍の船の船底に穴を開けて、内部に突入した。
背後には人型の穴があり、大量の海水が流れ入ってくる。
このまま放っておいても沈みそうだが……ヴァンはふと侵入した船の内部に太い柱を発見する。
「これは……マストか」
おそらく、そうだろう。
良い物を見つけたとヴァンは頷いて……そのマストを思いっきり蹴りつけた。
ベキボキと音を鳴らしてマストがへし折れて、やがて悲鳴の声が聞こえてくる。
「ウワアアアアアアアアアアアアアッ!」
「な、何だあああああああああああああああっ!?」
「よしよし、これで沈みそうだな」
満足そうにうなずくヴァンであったが……その船の乗組員らしき男達が現れる。
「な、何だあっ!?」
「水だ、水が入ってきているぞ!」
「せ、船底に穴が……水が入ってきたぞおおおおおおおおおおおおおっ!」
てんやわんやの大騒ぎをする乗組員であったが……彼らは、やがてそれをやったのがヴァンであることに気がついた。
「テメエの仕業か!」
「よくもやりやがったな! ぶっ殺してやる!」
「そうか」
ヴァンは頷いて、武器を取り出した乗組員におもむろに近づいた。
「なっ」
「よっと」
両手で抱えて、上に投げる。
天井に穴が開いて、乗組員の腰から上が見えなくなる。
「おまっ……」
「よっと」
二人目は横の壁に叩きつけてみる。
ズボリと乗組員の上半身が外に出て、隙間からさらに流れ込んでくる海水。
ジタバタと苦しそうに乗組員が足を振ってもがいているが、やがてグッタリと動かなくなった。
「よしよし、さて……そろそろ外に出ないと俺も溺れるな」
ヴァンは水が満ちてきた船室から外に出た。
階段を上っていくと、さらに混乱の声が大きくなっていく。
「こ、このままでは船が沈む……!」
「早く、早く他の船に移るぞ!」
船のデッキにいたのは屈強な男達。
海賊であるようだが、統率がとれていて一国の軍隊のようなまとまりが感じさせられる。
「どうやら、南の国のしりゃくせん? というのは事実みたいだな」
「誰だ、お前は!」
「ウチのクルーじゃない……侵入者だ!」
ヴァンに気がついた海賊達が怒声を発した。
彼らは怒りの形相になって武器を構えるが……ヴァンは怯えた様子もなく問いかける。
「ガドナ水軍のリーダーはいるか?」
「は?」
「リーダー……つまり船長はこの船にいるのかと聞いた」
落ち着いた声音で尋ねられた乗組員はわずかに驚いたような顔をするが、すぐに怒声を発した。
「そんなこと、侵入者に教えるわけがないだろうが!」
「お前こそ何者だ! いったい、どこの回し者……」
「ああ、そうか。じゃあいいや」
ヴァンは興味が無くした様子で目を逸らし、船の縁に向かって歩いていく。
(考えてもみれば……船長はいるかって聞かれて、いますとは答えないか。沈む船からは真っ先に逃げ出しているだろうし……他の船をあたろう)
「お邪魔しました」
「へ……」
ヴァンが船の縁を蹴って、隣の海賊船に飛び移った。
隣とはいったものの……その船までは二十メートルほど距離が開いている。
それなのに、ヴァンは特に助走をつけることもなくあっさりと船の真ん中に着地した。
「よっと」
「グギャ……」
「あ」
踏んだ。人を。
ヴァンの足元で人が潰れている。
筋肉のせいでそれなりに体重が重めのヴァンとデッキの間で潰されて、グチャリとなって血をまき散らしていた。
「なっ……」
「そんな……船長オオオオオオオオオオオオオオオッ!」
「あ、これが船長か」
どうやら、ガドナ水軍のリーダーを踏んづけて圧死させてしまったらしい。
色々と聞かなければいけないことがあったような気もする。ヴァンは困ったように周りを見回した。
「てへぺろ」
先日、妹がやっていた可愛らしい仕草を真似してみるが……もちろん、それは周りの海賊達には伝わらなかった。
海賊船のクルー達は殺気立った様子で、船長の敵を討つべく武器を向けてきた。
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