第85話 見つけたから突っ込むよ

 ヴァンを乗せた『海風の一味』の船は進んでいき、やがてとある海域に到着した。

 目的の場所に到着すると、ドラコ・オマリがヴァンに向けて口を開く。


「ガドナ水軍はこの辺りをナワバリにしているよ。他の海賊が迂闊に入ったら、すぐに沈められちまうね」


「そうか……」


「それで……船を見つけたら、どうするつもりだい?」


「乗り込む」


 ヴァンの回答はシンプルである。

 敵を見つけたら徹底的に叩き潰す。サーチ・アンド・デストロイ。

 難しいことを考えるのが苦手で優柔不断なヴァンであったが、やるべきことが決まってさえいれば行動力は高いのである。


「良いね……気に入ったよ」


 ヴァンの飾ることのない言葉を受けて、ドラコ・オマリが感心したような顔をする。


「とはいえ……アタシ達は手を貸すことはできないよ。連中と戦争をしても、アタシ達に得はないからね。部下や村の連中を危険にさらすことはできない」


「別に良い。俺一人で十分だ」


「……ますます、気に入った。手助けはできないけど、逃げてきたら保護してやるよ。今日は海賊旗も掲げていないし、しらばっくれたら誤魔化せるはずよ」


「重ね重ね、感謝する」


 そんな会話をしていると……水平線の方にいくつかの船が見えてきた。

 船は四隻。そのうち一隻が商船であり、残りの三隻の船がそれを襲っているように見える。


「あれは……」


「お……噂をすればだね」


 どうやら、ガドナ水軍の船が商船を襲っている最中のようだった。

 三隻の船に囲まれた商船は抵抗もままならず、されるがままに積み荷を奪われている。


「まったく……相変わらず、阿漕なことをしてやがるわねえ。小舟は貸してあげるけど、アンタは……」


「行ってくる」


「どうやって……って、おいっ!?」


 ドラコ・オマリの言葉を最後まで聞くことなく、ヴァンが海に飛び込んだ。

 まさか泳いでいくのかと思ったのはわずかな間。

 ヴァンは波を蹴り、海面を走って行ってしまう。


「え、えええええええええええええええええっ!?」


「……流石に慣れたな」


 二度、三度と海の上を走ってみて……だんだんとこの移動方法にも慣れてきた。

 もはや、普通の地面を走るのと同じような感覚で、海面を走ることができるようになっていた。


「それじゃあ、さっそく闘ろうかな」


 右足が沈む前に左足。左足が沈む前に右足。

 それを目にも留まらない速度で繰り返して、ヴァンはガドナ水軍の船との距離を詰めた。

 商船を襲うことに夢中になっている海賊達は、明後日の方向から海を駆けてきたヴァンに気づいていない。


「お邪魔」


 ヴァンは少しも速度を緩めることなく走っていき……そのままの勢いで、ガドナ水軍の船に突っ込んだ。

 ズドンと大きな音が鳴り、大型船の船底に穴が開く。

 人間のシルエット形の穴から大量の海水が入っていき、船がグラリと揺れている。


「ウワアアアアアアアアアアアアアッ!」


「な、何だあああああああああああああああっ!?」


「せ、船底に穴が……水が入ってきたぞおおおおおおおおおおおおおっ!」


「…………嘘お?」


 突然の出来事にガドナ水軍の船から悲鳴が上がり、あり得ない光景を目にしたドラコ・オマリが唖然とした顔で声を漏らしたのであった。

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