第81話 海賊の村だよ

 その村は小さな漁村だった。

 人口は二百人ほど。規模も小さく、目立った産業はない。

 農地にできるほどの土地もなかったため、どこの国からも必要とされず、領有されることなく独立していた場所である。


 元々、その島は流刑地だったらしい。

 多くの罪人が島に流されており、その子孫が今の島民達だ。

 すでに流罪に使われることはなくなっているものの……国から見放された土地であることは間違いない。

 貧しい村では毎年のように餓死者が出ていた。

 独立した村のため外から病気が持ち込まれることはなかったが、風邪で子供が死んでしまうことは珍しくもない。


 飢えに耐え、貧しさに苦しむ島民であったが……ある日、彼らの運命が変わる。

 ある一隻の船が村に流れ着いたのだ。難破船であったその船の船長は助けてくれた島民に感謝しつつ、提案した。

 自分と一緒に海賊をやろうと。食料や薬を手に入れれば、村が豊かになる。飢えた島民を、病気の子供を救うことができる。

 島民達は迷ったが……最終的には、彼の提案を受け入れることになる。

 海賊団『海風の一味』の結成だった。



     〇     〇     〇



「ハハハハハハッ!」


「おお、上等な酒じゃ。こっちの塩漬けも美味いのお!」


「フルーツがあるよ! やったあ!」


 その日、島にある唯一の村では宴が開かれた。

 戻ってきた海賊団『海風の一味』が持ち込んだ酒を飲み、食料を食べ、島民達が喜びの声を上げている。


「よくぞ、無事に戻ってきてくれたのお、怪我はないかい?」


「問題ないよ、村長。村は何もないかい?」


「ああ、大丈夫だよ。いつも助かるねえ」


 宴の中心にいるのは『海風の一味』の村長であるドラコ・オマリ、そして村長である老人だった。

 宴席では島民と一緒になって、海賊達が踊り歌っている。

 彼らは見るからに親しそうであり、島民と海賊が協力関係にあることがわかる光景だった。


「さあ、みんな! 遠慮なく食いな! アタシ達の帰還を祝っておくれ!」


「乾杯!」


「「「「「カンパーイ!」」」」」


 ドラコ・オマリの声に応えて、島民達が笑顔で木の杯を掲げた。


「チッ……」


「調子に乗りやがって……」


 そんな宴の席から遠く離れた場所で、男達が不満そうに舌打ちをした。

 宴席に入れてもらえず、離れた場所で食料を与えられているのは『海風の一味』に捕まっている海賊の男達である。

 彼らはヴァンの船を壊されたところをドラコ・オマリによって保護され、命の対価として労働を強いられていた。

 対価の分だけ働いたら解放してもらえることになっていたが……奴隷のような扱いを男達は不満に思っているらしい。

 彼らは水と食料は十分に与えられているが、酒はもらえなかった。それも不満の原因の一つである。


「どうして、俺達がこんな目に遭わなくちゃいけないんだよ……!」


「チクショウ……海賊め!」


「俺達も海賊だけどな!」


「…………」


 そんな男達の中には、ヴァンの姿もあった。

 海賊達はヴァンが船を壊したことは知らない。人が大木をぶん投げて船を壊されたなど、わかるわけがなかった。

 ヴァンは気まずそうな顔をしながら、できるだけ目立たないように身体を縮めて硬いパンを齧っている。

 ちなみに、一緒に捕まったルーガはこの場にはいない。

 少女を一緒にしていたら酷いことになるだろうと気を利かせて、ドラコ・オマリが分けてくれたのだ。


「なあ、やっぱり……」


「ああ、今夜にでも決行だな……」


 宴を開いている島民をジットリと睨みつけて……男達がヒソヒソと内緒話をしている。


「ああ、やってやるぜ!」


「連中に目にもの見せてやる……!」


「俺達を虚仮にしやがって……後悔させてやるぞ!」


「…………」


 どうやら、悪だくみをしているらしい彼らを見つめて……ヴァンはひっそりと溜息を吐いたのであった。

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