第78話 船を沈めちゃったよ(テヘペロ)
「船が、船が沈むぞ!」
「イマージェンシー! イマージェンシー!」
「早く小舟に乗り込むんだ……巻き込まれて一緒に沈んじまうぞ!」
ヴァンが投げた木が衝突したことにより、見知らぬ船が沈もうとしている。
マストはへし折れ、木の先端が船底まで貫いて……もはや沈没は免れそうもない。
浸水して沈もうとしている船の上で、船員達が悲鳴の声を上げている。
「船長! この船はもうダメです、早く逃げてください!」
「……お前ら、先に行きな」
「何を言っているんですか! 早くこっちへ、船長!」
「俺は船長として、船と運命を共にする。海の底で独りぼっちは寂しいもんな。俺くらいついていってやんねえと可哀そうだろうが」
「な、何だって!」
「そんなっ! 嫌だあ、船長!」
「アバヨ、達者でな」
「船長!」
「船長、船長オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
「うっわ……すごいことになってるんだけど……」
沈んでいく船で騒いでいる船員達に、ヴァンが困った顔になった。
海に浮かんでいる木の幹の上に立って、周りを見回す。
周囲には破壊された船の残骸がプカプカと浮かんでおり、投げ出された船員がそれに掴まって海を漂っている。
この惨状を引き起こしたのはヴァンである。
自分がやらかしてしまった惨劇を前にして、流石に不味かっただろうかと申し訳ない気持ちになってきた。
「これは……やっぱり、助けなくてはダメだろうか……」
「王者、別に良いんじゃないか?」
パタパタと翼を動かして、ルーガがヴァンの隣まで飛んできた。
「コイツら、海賊だぞ。ドクロのマークがあるぞ」
「ああ、本当だな。海賊船だったのか」
船の残骸のマストにドクロマークの旗が残っていた。
どうやら、ヴァンが潰したのは海賊船だったようである。
相手が海賊だったら、沈めてしまったところで問題はない。ヴァンは安堵の溜息を吐く。
「ああ、良かった。それならば問題ない……ところで、どうやったら港まで帰れるだろうか?」
「港、見えないくらいに遠いぞ。方向だってよくわからないし、ルーガでも飛んでいけないと思うぞ」
「ああ、そうか……困ったな」
方向がわからないのでは、先ほどのように投げた物に掴まっていくのも難しい。
困り果てるヴァンであったが……ふと、遠くから一隻の船がこちらに向かってくるのが見えた。
「ム……何か来たな」
「来たぞ」
別の船がズンズンと近づいてきて、その穂先に立っている小柄な人物が海に向かって怒鳴りつけてくる。
「お前達、ここで何をやっている!?」
それは細身で小柄な少女だった。年齢は十代後半くらいだろう。
海色の美しい髪を背中に流して、細い身体に似合わぬ大きな声で話しかけてくる。
「船が難破したというのならば慈悲をやる! 武装解除して投降するのならば、この船で保護してやろう!」
「王者……アレもたぶん、海賊船だぞ」
ルーガがそっと言ってくる。
女が乗っている船には剣のエンブレムが掲げられていた。
ヴァンが記憶を掘り返すと……それは代官の屋敷で聞いた、特に要注意の海賊のエンブレムの一つだった。
「名前は…………忘れてしまったな」
興味がないので覚えていなかったが、襲った相手を殺さない穏健派の海賊という話ではなかったか。
「とりあえず……あの船に乗っておこう」
「良いのか、王者?」
「帰り道がわからないのではな……他にどうしようもあるまい」
海賊は別に怖くはない。
怖いのは海で遭難して、家に帰れないことである。
「いざとなれば、奴らを叩きのめして船を奪えば良い。交渉で帰り方を教えてくれるのであれば、それがもっとも良いがな」
ヴァンは大人しく投降して、謎の海賊団に捕まることにした。
海に浮かんでいる他の海賊と一緒に、剣のエンブレムの海賊船に引き上げられたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます