第74話 赤鬼の宴

 とある小島。そこは海賊団の根城となっていた。

 アジトに掲げられた角が付いた赤いドクロのマーク。それは彼らが海賊団……『赤鬼』の一味であることを示している。


「何だとお? ウチの船が沈められたあ?」


 小島の中央に建てられた簡素な建物にて、大柄で粗野な男が声を上げた。

 その男こそが『赤鬼』の頭目である大海賊……ボッドマン・ギーグである。

 かつては善良な船乗りであったが、船主からクビにされたことをきっかけにして船を略奪。

 そのまま仲間を募って海賊となり、いつの間にかいくつもの船団を抱える大海賊となっていた。

 かつては大陸南部を荒らしまわっていたのだが、取り締まりが厳しくなったために新興国であるアーレングス王国に活動場所を移してきた。


「どういうことだ!? 説明しろお!」


「へえ、生き残った連中によると……何か大きな物を撃ち込まれて、そのまま船底に穴が開いて沈んじまったんだと」


「流石に町のすぐ傍で略奪してたのは不味かったんすかねえ」


「テメエら……」


 ヘラヘラと笑っている部下に、ボッドマンは頭痛を堪えるような顔になる。

 海賊団が大きくなって、船は増えたが……やはり海賊になる連中はこんな奴らばかりだった。

 優秀な部下が欲しいと、ボッドマンは心の底から嘆く。


「クソッ、貴重な船を沈めやがって……まあ、いいさ。損害はすぐに取り戻せる。どうせこの島には誰も来れねえんだからな……!」


『赤鬼』の一味がこの小島を拠点にしているのは、周囲の海域の海流が激しく、船が近寄ることができないからである。

 おかげで、アーレングス王国の海軍からも逃れて、これまで一方的に略奪することができていた。

 ならば、『赤鬼』の一味はどうして海流の影響を受けないのかというと……それはボッドマンがとある秘宝を持っているからである。


(『海鳴きの宝珠』……コイツが無かったら、俺なんて無名の海賊として捕まって処刑されていただろうな)


 ボッドマンが首に付けている宝珠を指で撫でる。

 それは偶然にも発見した太古のマジックアイテムで、波を操ることができるという力を持っていた。

 この宝珠を乗って船に乗れば、海流が勝手に目的地に運んでくれる。追手を荒波が阻んで逃亡を手助けしてくれる。獲物の進行方向に渦を作って逃げ道を阻んでくれる。

『赤鬼』が大海賊として名を馳せるに至ったのは、大部分がこの秘宝のおかげだった。


(まさか……たまたま停船した漁村に地下神殿があって、とんでもないお宝が眠っているなんてな……本当に運が良かったぜ)


「まあ、良い……それよりも、船を潰した奴の正体についてはわかっているのか?」


「へい、町に忍び込んで探らせたところ……どうやら、アクエリアの町にヴァン・アーレングスがやってきているようですぜ」


 ボッドマンの問いに手下の一人が答える。


「ヴァン・アーレングス……まさか、国王が自ら来たのか?」


「へえ、船を沈めたのもそいつらしくて……まあ、どうやったのかまでは知らねえですけど……」


「フン……国を奪い取った覇王とか言われていたが、伊達じゃなかったみてえだな。引き続き、そいつのことを調べさせろ」


「わかりやした」


「ヴァン・アーレングスか……ひょっとすると、凄腕の魔法使いなのかもしれねえな。この島に乗り込むことができるとは思えねえが、警戒だけはしておいて」


「邪魔をする」


 ガチャリとアジトの扉が開いた。

 外から誰かが入ってきて……そして、ボッドマンの足元に何かを転がしてくる。


「なあっ!?」


「うわあっ!」


 転がってきたのは人間の生首だった。

 おまけに、それは同じ『赤鬼』の仲間……今晩の見張り役をしているはずの男の頭部である。


「邪魔をされたのでもぎ取った。知り合いだったのならば謝ろう」


「テメエ……何者だあ!?」


 ボッドマンが立ち上がって、叫ぶ。

 扉から入ってきたのは黒髪の青年である。背は高く、厳めしい表情をしている。


「ヴァン・アーレングス」


「ッ……!?」


 男が名乗る。

 それは今まさに話題にしていた、アーレングス王国の国王の名前だった。


「ここに海賊がいると聞いてきた。お前達がそうならば、大人しく縛につくように」


 黒髪の侵入者……ヴァンは驚く海賊達を見据えて、淡々とした口調で告げたのである。






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