第72話 海賊船、倒しましたけど?

「ヴぁ、ヴァン国王陛下……貿易船を救っていただき、誠にありがとうございます……」


 海賊船を潰して屋敷に戻ると、代官が恐縮しきった様子で頭を下げてくる。


「本来であれば、私共で対処しなくてはいけないというのに……本当に申し訳ございません。まさか、陛下の手を煩わせてしまうだなんて、この失態はいずれ必ず……」


「良い」


 代官の言い訳をヴァンが鬱陶しそうに断ち切った。

 そんなことが聞きたいわけではない。聞くべきことは他にある。


「海賊の根城は?」


 必要なことだけを訊ねる。

 ヴァンにとっては、責任の所在云々といった話はどうでも良い。

 海賊退治にやってきたのだから、重要な情報は海賊の居場所や数だけである。

 それさえ教えてもらえれば、さっさと片付けに行くものを。


「そ、その……海賊の居場所はわからなくて……申し訳ございません」


 代官が勢い良く、頭を下げた。


「こ、この失態は必ずや……」


「わかるぞ、海賊の居場所だったら見ていたぞ!」


「へ……」


 屋敷の窓が外から開いて、一人の少女が屋敷の中に入ってくる。

 町の散策に飛んでいっていた鳥獣人のルーガだった。

 突如として飛び込んできた少女の姿に、代官が慌てた様子でアワアワと両手を振る。


「じゅ、獣人!? コラ、陛下がいらっしゃるのに……!」


「良い、下がれ」


「はい?」


「下がれと言った」


「へ、あ? はいっ! かしこまりましたあ!」


 ヴァンが重ねて言うと、代官が飛び跳ねるような動きで下がる。思ったよりも機敏に動けるようだった。


「戻ったか」


「戻ったぞ、王者!」


 ルーガがヴァンに抱き着いた。

 首に手を回して、親しげに頬を頬に擦り寄せる。

 ヴァンの手も自然とルーガの背中に回されて、腰から尻までを不躾に撫でた。

 部屋には代官や他の兵士達もいたが……構うことなく、この場でおっぱじめてしまいそうな状態である。


「それで……海賊の居場所がわかるとは?」


 しかし、ヴァンとて人前でやらかすほど空気が読めないわけではない。

 聞くべき情報を先に聞き出すことにする。


「王者が沈めた海賊、アレに仲間っぽい船が沖にいたぞ。そいつらが逃げたところ、ルーガは見ていたぞ!」


「でかした」


 ヴァンが褒める。

 ルーガは『翼の一族』の獣人。白い翼を背中に生やしたシラサギの獣人である。

 彼女は空を飛びながら、上から海賊船を見下ろしていたようだった。


「そ、それはどの辺りですか? 地図を持って参ります!」


 代官が慌てた様子で地図を取りに行く。

 ルーガは残念ながら、地図の見方など知らなかった。

 それでも、時間をかけて聴取すると、海賊が港町からやや離れた場所にある小島を拠点にしていることが判明する。

 思ったよりも近くに潜んでいたのは、それだけこの町の海兵が舐められていたのか。それとも、灯台下暗しというのを狙ったのか。


「ま、まさかこの島に……そうか、この島の周辺は海流が激しくて、調査が行き届いていませんでしたな……」


「明日、行ってくる」


 驚いている様子の代官に、ヴァンが端的に告げる。

 その言葉を聞いて、副官であるレイクスも出陣の準備に入った。


 港町にやってきて早々に海賊船を一つ潰して、翌日には敵のアジトらしき小島に強行軍。

 鉄砲玉のようなヴァンらしく、迅速果断でありながらも考えの浅い行動力であった。

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