第69話 港町にやってきました

 アーレングス王国西部には広大な海が広がっている。

 沿岸の町……『アクエリア』にはいくつもの交易船が停泊しており、大陸南北の国、海の向こう側にある別の大陸との間で貿易が行われていた。

 アクエリアにて貿易が行われているのはアイドラン王国時代から変わらないが……ここ一年、特に貿易が活発になっている。


 暴君が打ち倒されたことによって、国民の生活が豊かになって経済が活発化したこと。

 そして……大森林が新たな領地として取り込まれたことにより、新たな産業が生まれたことが理由である。

 特に、大森林の内部で発見された鉄鉱石、宝石の産出は大きい。

 これらの鉱脈はアーレングス王国にも存在していたのだが、そこで採れた鉱物は自国内で消費されていた。

 しかし、手つかずで埋蔵量が計り知れない鉱脈が発見されたことにより、他国に輸出する余裕ができたのである。


 宝石が安価に手に入るようになったことで、加工技術も飛躍的に向上してきている。

 何事も無ければ……アクエリアの町での交易は今後も天井知らずに昇っていくことだろう。


「だけど、問題が起こったんだろう? ルーガは知ってるぞ!」


「……そうだ」


 同行者である鳥の獣人……ルーガの言葉に、ヴァンが頷いた。


 ヴァンは西海を荒らしている海賊を征伐するべく、沿岸の町アクエリアにやってきていた。

 後ろに率いられているのはルーガの他、一個中隊のみである。

 国王の親征としてはあまりにも小規模だが……ヴァンが少数精鋭で遠征に出るのは、今さらのことだった。

 おまけに……ヴァン配下の騎士団はいずれも陸軍であり、海での戦闘には不得手である。


「ヴァン陛下、よくぞお越しくださいました!」


 アクエリアの門をくぐると、町を管理している代官が出迎えてくれた。

 かつてはとある貴族が治めていた町であったが……アーレングス王国発足時の調査で脱税が発覚して、改易を命じられている。

 現在は王家の直轄地となっており、王家が派遣した代官によって管理されていた。


『そもそも、貿易の要である最重要拠点を一介の貴族に任せていたことが問題なんです! アイドラン王国は額面通りの金だけ受け取って監査などもしていなかったようですし、脱税されて当然ですよ!』


 などというのは、ヴァンの妹にして妃であるモアの言葉である。

 どうでも良い土地ならば、多少の脱税にはお目こぼししたかもしれないが……貿易の最重要拠点であれば話は別。

 脱税が見つからずとも、何らかの理由を付けて改易されていたことだろう。


「さあさあ、どうぞ! 屋敷を用意してございますので、こちらにお越しくださいませ……!」


「助かる」


 ヴァンは配下の兵士を引き連れて、代官の案内の下で屋敷に向かっていった。

 これから、この町を拠点にして海賊討伐を行うことになる。


「王者、王者!」


「何だ、ルーガ?」


「ちょっと、空を飛んできても良いか? 上から海を見下ろしたい!」


 ルーガが目を輝かせながら、そんな提案をしてきた。

 大森林から出たことのない獣人種族である少女は、見る物が全て珍しいのだろう。


「トラブルを起こさないように気をつけろ」


「わかったぞ! 行ってくるぞ!」


 ルーガが天使のような白い翼をはためかせて、青い空へと飛んでいく。

 ヴァンは小さくなっていくルーガを見送って、滞在先の屋敷へと向かっていくのだった。

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