第67話 お兄様は大森林の覇者になりました

 ヴァン・アーレングスが七つの異民族を服属させ、その姫達を手に入れた。

 その知らせは早馬により、すぐさま王都にいるモアにも知らせられることになる。


「さすがはお兄様です! こんな短期間に異民族を従えてしまうとは、本当に卓越していますね!」


 モアは両手を合わせて、これまで誰にもできなかったことをやってのけた兄を称賛する。

 異民族を服属させたことにより、南の大森林は名実ともにアーレングス王国の領土となった。

 これにより、アーレングス王国の国土は倍近くまで広がることになる。


「大森林には獣人達には加工することができず、放置されていた資源が大量に眠っている……それらが全てアーレングス王国の物になるのですから、単純に土地が広くなった以上の価値がありますね。これもある意味では貴方のおかげです」


「…………」


 モアが笑顔で話しかけると……少年がノロノロと顔を上げた。

 その少年は手足を鎖で拘束されており、強制的に机につかされている。


「貴方に話しかけているんですよ……聞いてましたか、ガラムさん?」


「…………」


 机について、無言を貫いているのは取り獣人の少年であるガラムだった。

 かつては獣人達を束ねていた族王であった彼も、今となってはタダの捕虜。

 その部屋に軟禁されており、ひたすら仕事をさせられていた。


「もしかして、自分の方が先に彼らを統一したと主張したいのですか? 確かに、そうかもしれませんが……貴方が手に入れた姫は三人だけ。七人を手に入れて、すでに抱いているお兄様の方がはるかに……」


「……して」


「はい?」


 ようやく、声を発したガラムにモアが首を傾げる。

 しかし、油断して近づくことはせずに距離を保ったまま問いかける。


「何か、言いましたか? よく聞こえませんでした」


「……もう、殺して」


「殺して? 貴方は死にたいのですか?」


「あたりまえだ……こんな生活、もうたえられない……」


 ガラムが力なく、泣きの入った声で呻く。


「もう、限界なんだ……来る日も来る日も、前世の記憶を紙に書き写すだけの日々。思い出せることがなかったら、食事を抜かれたり、殴られたりする……もう、こんな生活はこりごりだ。お願いだから、もう殺してくれよ……」


 かつて、ガラムは族王として七つの獣人部族を統一した。

 戦いに敗れて捕虜になったものの……その直後は、囚われてもなお噛みついてくるだけの気概があった。

 しかし……自分の婚約者である三人の女性をヴァンに奪われ、彼女達が抱かれている姿を見せつけられて以来、すっかり心が折れてしまっている。


(一皮剥いてみれば、ただの子供ですね。前世では高校生だったそうですが……色々と甘すぎますよ)


 むしろ、これがガラムの本来の姿なのだろう。

 転生して自分が特別になったと思い込み、調子に乗っていたところで長くなった鼻をへし折られ、身の丈の状態に戻っただけである。

 死にたいのであれば食事を食べなければいい。あるいは、舌でも噛みちぎってしまえば良い。


(それが自分でできないあたり、本当は気も弱いのでしょうね……)


「頼むよ……殺してくれよ。こんなの生き地獄だ……」


「生きているだけマシでしょうに。貴方のせいで死んでいった人達に聞かせてあげたいですよ」


 モアが呆れた様子で肩をすくめる。

 ガラムが純粋な被害者であったのなら、あるいは同情もしただろう。

 だが……ガラムは獣人を率いてアーレングス王国に攻め込み、無抵抗な村人を虐殺した戦争犯罪者である。

 こうして生かされているだけでも、十分な温情だった。


「ダメですよ。死なせてあげません……マンガの知識というのは意外と馬鹿にできないとわかりましたからね」


 ガラムの懇願をモアは切って捨てた。

 ガラムは前世ではかなりのマンガ好きだったらしい。

 そのため、マンガの知識を元にした雑学をかなりの量、持っていた。


(浅くて広い中途半端な知識ですけど……使いようによっては、かなり役に立つでしょうね)


「ううっ……もう嫌だ……」


「とはいえ……ムチだけで働かせるのも限界ですか。そろそろ、飴を与えましょうか」


 モアが手に持ったハンドベルを鳴らした。

 すると……部屋の扉が開いて、一人の女性が入ってくる。


「へ……?」


「貴方に補佐役を付けます。今後、こちらの女性に手伝いをさせますから」


「貴方がガラム様ですね。よろしくお願いしまーす」


 現れたのは、たゆたゆと胸を揺らした妙齢の美女である。


「すっごい、博識なんですよね? これから、色々と教えてくださいね?」


「え、へ……あ?」


 困惑しているガラムに近づいていき、二の腕に女性が胸を当てる。


「おほっ」


「それじゃあ、今日も頑張ってお仕事しましょうね。仕事が終わったら、私と良いことをしましょう?」


 その女性はとある店で働いている娼婦だった。

 モアが高い給金を支払って雇い入れたのである。


「結局、殿方にとって一番の原動力はそれですよね」


 英語の教材の内容をエッチな内容にしたら成績が上がるという奴である。

 ムチだけでは人は働かない。やはり、時には飴を与えなくては。


「それでは、ごゆっくり」


 モアは美女と鼻を伸ばしている少年を残して、さっさと部屋から出ていったのである。






――――――――――

作品紹介


毒の王 ~最強の力に覚醒した俺は美姫たちを従え、発情ハーレムの主となる~

https://kakuyomu.jp/works/16816927862162440540


書籍3巻発売中。コミカライズ企画も進行中!!

ただいま連続更新中になります。

ぜひとも読んでみてください!

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