第66話 亀さんはのんびりしているよ
『蹄の一族』のミルミール、『耳の一族』のカボスを加えて……ヴァン・アーレングスは大森林にいる獣人の大部分を屈服させた。
残すところは『甲羅の一族』のみ。大森林の征伐が完了するまで、あとわずかである。
「うーん、そうじゃなあ……とりあえず戦うかのお」
「ウムウム、噛みついてから殺されたら良い」
「いやいや、待たれよ待たれよ。迂闊に戦ってしまえば滅ぼされてしまうぞい」
「その時はその時じゃろうて。戦って滅びるのならば本望じゃよ」
ヴァンは『甲羅の一族』の村にやってきて、彼らに降伏を迫った。
すると……亀の獣人である彼らは広場に集まって、のんびりとした口調で話し合いを始めた。
「それじゃあ、誰から戦うか決めるかのう」
「こういう時は年功序列じゃろう? 年上の物からじゃと掟で決まっておるわい」
「待たぬか。その掟だったら百五十年前に改正されたじゃろう? 若者から戦うのではなかったのかの?」
「いやいや、八十五年前に再度、掟が定められたはずじゃよ」
「そうじゃそうじゃ、ならば最年長のワシからかのう?」
「待たれよ、ワシの方が年上ではなかったか?」
「いやいや、最年長は池向かいの爺様じゃよ」
「その爺様だったら、十五年前に亡くなったぞい?」
「……この話し合い、いつ終わるんだ?」
広場で話し合いをしている亀獣人を見て……ヴァンが呆れた様子でつぶやいた。
『甲羅の一族』の亀獣人はとても高齢である。
村人の平均年齢は三百歳ほど。最年少の者でも五十を超えているようだ。
長寿の彼らは当然のように気も長く、物事を決定するのに時間がかかる。
ヴァンも思考は遅い方だと自覚しているが……自分を上回るノロマな亀獣人達の姿には呆れ返るばかりだった。
「……俺も、人にはこう見られているんだろうか?」
「どうする、王者。アイツら、きっとまだまだ時間がかかるぞ?」
ヴァンの腕を引いて、ルーガが言ってくる。
「兄者がアイツらに人間と戦うから兵を出せと言った時も、アレコレと話し合いをするばかりで戦争に間に合わなかったんだ。待っていたら日が暮れるどころか、年が明けてしまうぞ!」
「そうだな……」
ヴァンが眉間にシワを寄せながら、思う。
コイツらは放っておいても問題ないのではなかろうか。
「ワシが生まれたのが三百年前の星降る夜じゃぞ?」
「待て待て、ワシはその前の大雪の日から生きておる」
「なれば、ワシの方が長寿じゃな。大雪の前の年の七番目の満月の日に生まれたぞい」
ヴァンは彼らの処遇についてどうするべきか迷ったが……しばらくは放置で良いだろう。
無駄な来訪だったと背を向けて、『甲羅の一族』の集落から引き上げようとする。
「お待ち、お待ちを!」
「ム……?」
「人の王よ! どうかお待ちくださいませ!」
だが……集落を出ようとしているヴァンに、一人の少女が駆け寄ってきた。
「わたくしを、わたくしめを連れていってくださいませ!」
「君は……?」
やってきたのは、背中に甲羅を背負った少女だった。
ヴァンの腰ほどの体格しかない。『耳の一族』のカボスよりもさらに小さい。
『甲羅の一族』の特徴……人間よりも青白い肌。背中に大きな甲羅。瞳の色は緑色である。
その姿は人間寄りの河童のよう。もちろん、その存在をヴァンは知らないのだが。
「『甲羅の一族』、族長の娘……イーナーと申します! 私をこの集落から連れ出してください!」
「連れ出すって……どういうことですの?」
ヴァンに代わって、『牙の一族』のヴァナが訊ねた。
「イーナーさん……貴女の名前は聞いていますわ。『甲羅の一族』でもっとも年若い娘……年齢は五十歳ほどでしたね?」
「五十歳?」
ヴァンが驚きに目を瞬かせた。
目の前の少女はどう贔屓目に見たとしても、十五歳は超えていない。
それなのに……ヴァンの倍以上の年月を生きているというのだろうか?
「『甲羅の一族』は成長や老化が遅いのだよ、殿」
「なるほど……」
リザーの言葉にヴァンは納得する。
種族が違うのだから、そういうこともあるだろう。
「それで……連れていけとは?」
「この集落は……退屈なんですっ!」
「退屈……?」
イーナーと名乗った少女に、ヴァンが眉をひそめる。
「そうです! この集落の人達はみんなのんびりしていて、話もすることも時間がかかって……もう、頭がおかしくなりそうなんですっ!」
どうやら……その少女は他の『甲羅の一族』とは違って、のんびりとしていない、むしろせっかちした性格のようだ。
グダグダと話し合いをするばかりで、決断をすることもしない老人達に辟易しているようである。
「……良いのか?」
「はい、国王陛下に忠誠を誓います! 何でもしますので、どうか外の世界に連れていってください!」
「…………」
他の『甲羅の一族』に目を向けると……彼らはこちらの様子にも気がつかず、のんびりとしたようすで話を続けている。
「……まあ、良いか」
本人がついてきたいと言っているのだ。あえて拒否する理由はない。
「それじゃあ、行こうか」
「はいっ!」
かくして、ヴァン・アーレングスは大森林に棲んでいる七つの部族の服属に成功した。
これにより、アーレングス王国の支配域は南に大きく広がることになるのだった。
――――――――――
作品紹介
毒の王 ~最強の力に覚醒した俺は美姫たちを従え、発情ハーレムの主となる~
https://kakuyomu.jp/works/16816927862162440540
書籍3巻発売中。コミカライズ企画も進行中!!
ただいま連続更新中になります。
ぜひとも読んでみてください!
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