第64話 牛乳は甘めでホットが好きだよ

『蹄の一族』との戦い。血で血を洗うような激闘。

 大地が震え、木々が倒れ、砂塵が嵐となって巻き起こり、空からは血の雨が降って大地を赤く染めていく。

 そんな熾烈な戦いを制したのは……?


「アー、アー、アアアアアアアアアアッ! らめえ、お乳を搾ったららめでひゅよー!」


 呂律の回らない声で一人の女性が喘いでいた。

 彼女の名前はミルミール。『蹄の一族』の族長の娘……牛獣人の女性である。

 ミルミールは現在、ご褒美のスナック感覚でヴァンに抱かれている最中だった。


「うーん……こんなに簡単で良かったのかな? すごく楽に終わったんだけど……?」


 牛の乳しぼりをしながら、ヴァンが申し訳なさそうな口調でつぶやいた。


『蹄の一族』との戦いであったが……激闘だったのは、彼らにとってのこと。

 ヴァンにとっては、何とも言えない単調で容易な作業だった。

 それというのも……『蹄の一族』の戦い方はシンプル。

 敵に向かって、勢いよく突撃して体当たりをする……それだけである。


 だから、ヴァンの対応は一つ。

 突撃してきた『蹄の一族』の牛獣人を受け止めて、投げ飛ばす。

 一人投げ飛ばしたら、次の一人が突撃してくる。それを投げ飛ばしたら次が。さらに次が。

 気がつけば、全ての牛獣人が倒れており、どうぞ召し上がりくださいとばかりに姫のミルミールが差し出された。


「やあん、あー、アー!」


「牛はやっぱり、デカいんだな……」


 ミルミールの乳房は顔と同じほどの大きさがあり、おまけに牛の性質なのか処女であってもお乳が出る。

 ヴァンにとっては何とも楽しい時間であり……だからこそ、苦も無く彼女を抱けたことに罪悪感すら湧いてくる。


「モオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 やがて、タップリと堪能されたミルミールが寝所で脱力して動かなくなる。

 もちろん、死んだわけではなく果てて気を失っただけだった。


「終わった」


「終わったな、王者」


「終わりましたわね……簡単に」


「ウウム、さすがは我が殿だ」


「愛」


 ミルミールを堕としたヴァンを、すでに屈服している獣人四人娘が出迎える。


「さて……残すところは二つ。あと少しだな」


「いや、一つだけだぞ。王者」


「ム……?」


 ルーガの言葉に、ヴァンが首を傾げた。

 ルーガの代わりに説明を始めたのはヴァナである。


「旦那様がお楽しみのうちに、『耳の一族』が降伏に参りました。外にいますけど、会われますか?」


「……会おう」


 聞いたところによると……『耳の一族』は大森林にいる獣人達の中で、唯一、脳筋ではない部族とのこと。

 八方美人の二枚舌などと称されており、他の獣人からは敵意は向けられないが、下に見られているとのことである。

 ヴァンが建物の外に出ると……そこには、地面に頭を擦りつけている男女の姿があった。


「「「「「ヴァン国王陛下! 貴方様に降参いたします!」」」」」


 土下座をしている男女が声を合わせて、言ってくる。

 そこにいたのは頭から白や茶、黒の長い耳を生やした兎の獣人だった。

『耳の一族』と呼ばれている彼ら・彼女らがヴァンに向けて頭を下げてくるのだが……?


「……どうして、みんな裸なんだ?」


 そこにいた兎獣人はいずれも全裸だった。

 男女関係なく、一糸まとまぬ裸で土下座をしている姿は何とも言えず情けなく、哀れみを感じさせるものである。


「彼らは服を着ない部族なのか……?」


「いいえ、それは違いますっ! おーさま!」


「ん?」


 ヴァンの疑問に答えたのは、最前列で土下座していた少女だった。

 子供ほどの体格。凹凸のない身体つき。頭には白い兎耳が伸びている。


「これは我らが一族のさいけーれーの合図です! ちゅーせーの証として受け取ってくださいっ!」


「……お前は?」


「あ、もーしおくれました! 『耳の一族』の姫のカボスですっ!」


「カボス……」


「『蹄の一族』の者達を一晩でくっぷくさせたと聞きました! さすがは私達のおーさまですっ!」


 カボスと名乗った少女がヴァンに擦り寄り、媚びたように上目遣いになる。


「私達がちゅーせーを誓うのに一片のためらいもないですっ! さすがですー!」


「えっと……君達は忠誠を誓うのを拒んでいたんじゃ……」


「気のせーです。気のせー」


 カボスが全裸の身体をヴァンに擦り寄せて、ニンマリと笑った。


「どーか、ぶゆーでんを聞かせてくださいな。ささっ、こっちへどーぞ」


「お、おお?」


 ヴァンは再び、寝所へと連れていかれる。


「ああ……」


「そういうことですか……」


 ヴァンは別として……獣人四人娘は気がついた。

 寝所に引き込む寸前、カボスがニヤリと悪だくみをするような笑みを浮かべていたことを。


「殿に媚びて取り入るつもりのようだな……『耳の一族』の常套手段だ」


 リザーが不快そうに肩をすくめる。

 これが『耳の一族』のやり方。生き残り戦術だ。

 争うことなく、媚びと愛嬌によって過酷な大森林を生き残っていた……それが兎獣人なのである。


「無理」


「無理だな、絶対に!」


 ユラが首を振り、ルーガが同意する。


 他の男ならばまだしも……ヴァンは無理だ。

 いくら男に取り入ることが上手い兎獣人であっても……その姫であるカボスであっても、ヴァンを屈服させることはできないはず。


「あの娘に起こることが目に浮かぶな……」


「そうですわね……」


 また、仲間が一人増えるのだろう。

 ヴァンを介して急に仲良くなった姫達は、そろって笑い合うのであった。

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