第63話 ネコさんを可愛がるよ

『爪の一族』の集落に到着したヴァンは、これまでと同じく『歓迎』を受けた。

 ヴァンが暗殺者として送り込んだはずの姫を全裸で抱えてきたため、猶更にその歓迎は熱烈なものとなった。


「うんうん、猫は元気で良いねー」


 ヴァンはそんな歓迎を穏やかな笑顔で受け入れた。

 受け入れて……掴んでは投げて、掴んでは投げていく。

『爪の一族』の獣人は奇襲や集団戦法などの頭を使った戦いをしてくるが、ヴァンにとってはあまり効果がない。

 まるで作業のように戦士達を屈服させていく。

 そして……集落に入って一時間後には、広場で全ての『爪の一族』の住人が土下座をしていた。


「我ら、『爪の一族』……ヴァン国王陛下に忠誠を誓いまする!」


「「「「「忠誠を誓いまする!」」」」」


「ああ、良かった。助かる」


 平伏しているネコ科の獣人を見下ろして、ヴァンが満足そうに頷いた。

 彼らはアーレングス王国への服属を拒んでいるとのことだったが……結果的には、他の集落と同じだった。

 姫様を抱いて、歓迎されたので受け取って、そして土下座で忠誠を誓われる。

 これまでと同じパターンに、ヴァンはそれが獣人の文化なのだろうなと納得した。


「我。愛。你……」


 土下座する『爪の一族』の前に胡坐をかいて座るヴァンであったが……その膝の上には、彼らの姫であるユラが載っていった。

 ユラは愛おしそうにヴァンに顔を擦りよせ、ペロペロと愛おしそうに首筋を舐めてくる。

 片手はヴァンの股間を愛おしそうに撫でており、求めれば一族の人間の目の前であっても、迷うことなく身体を差し出してくることだろう。


「ムウ……馴れ馴れしいぞ、新参者!」


「まったく……あの夜闇の暗殺者がこの有り様とは」


「まるで飼い猫のようではないか……」


 堕ちきっているユラの姿に、ルーガとヴァナ、リザーの三人は呆れた様子になっている。


「次は?」


「え?」


「次は、どこだ?」


 ヴァンがそんな三人娘に訊ねる。

 三人はすぐに察した。

 次はどの部族が治めている集落に行けば良いのかと。


「そうだな……残りは『蹄』と『甲羅』と『耳』だな」


「厄介な『爪の一族』は屈服しましたし……好戦的なものを狙うのであれば、『蹄の一族』ではないでしょうか?」


「然り……彼らは『牙』や『爪』ほどではないが好戦的な一族だ。必ずや、殿の障害として立ちふさがるに違いない」


「『蹄の一族』……」


 ヴァンがつぶやき……首を傾げる。


「強いのか?」


「強敵」


 答えたのは、三人娘ではなくヴァンの膝の上にいるユラである。


「力、一等。大、一等」


「『蹄の一族』は牛の獣人ですわ。彼らは腕力と身体のサイズだけならば、七つの部族の中でも一等賞。巨大な体格から繰り出される強烈な一撃はとても厄介です」


 ユラの断片的な言葉を、ヴァナが補足する。


 牛の獣人である『蹄の一族』は身体のサイズとパワーで他の獣人を圧倒しているらしく、彼らを屈服させるのは骨が折れることだろう。


「だけど……王者なら、大丈夫だぞ! 絶対にだ!」


 ルーガが自信満々に胸を張った。


「我らが旦那様ですもの。当然ですわ」


「ええ……殿ならば、きっと勝利されることでしょう」


「是」


 ヴァナ、リザー、ユラも同意する。

 ヴァン・アーレングスという稀代の『雄』に敗北して、屈服した彼女達は確信していた。

 いかに『蹄の一族』が屈強であろうと、最後にはヴァンが確実に勝利するであろうと。


「わかった……出発だ」


 ヴァンは獣人四人娘に力強く頷いて、『蹄の一族』の集落へと出立した。

 最大級のパワーを持った『蹄の一族』との戦い……それは激しいものになるだろうが、ヴァンの瞳には少しの恐怖も浮かんではいない。

 勝利を確信した眼差しに、四人の獣人娘は改めてキュンと胸を高鳴らせて惚れ直すのであった。

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