第56話 えぬ、てぃー、あーる……だよ?

※NTR、エロに注意


 地下にある牢屋から出ると、城の中は暗く静まり返っていた。

 どうやら、今は深夜のようだ。

 初めて見る城の中。中世ヨーロッパ風の建築物の内部を見て、ガラムがキョロキョロと左右を見回す。


「正直に言いますと、私だって調子に乗っていた時期があったんですよ」


 語りながら、モアは先導して城の廊下を歩いていく。

 その手に握られたカンテラがオレンジの光を孕んで、不気味に揺れている。


「異世界に転生して、こんな文明レベルの低い世界は楽勝だと思っていた頃がありました。日本で得た知識を使って、良いように成功できると思っていました」


「…………」


「だけど……それは間違いでした。この世界には常識を超えた化物がいる。本物の怪物チートの前では、私達の知識なんて何の役にも立たないのです」


「……日本語」


「はい?」


「日本語……久しぶりに聞いたな……」


 ガラムがポツリとつぶやいた。

 モアは先ほどから、日本語を使って話をしている。

 周囲に兵士達がいるため、あえて言葉を切り替えたのだ。


「ああ、そうですね。言語というのはたまに話さないと忘れてしまうんですよね……どうでも良いことですけど」


 モアは肩をすくめて、話を戻す。


「要するに……私は本物の怪物を前にして、失敗した経験があるんですよ。これから、同じ経験を貴方にもしてもらおうと思います」


「俺にも……どういう意味だ……?」


「それは見ればわかりますよ……ああ、こちらです」


 モアがとある扉の前で足を止めた。

 そして、ガラムを振り返って皮肉そうに笑う。


「今ならば、後戻りはできますよ? 私の要求を呑むのであれば、心を折るのは許してあげますけど?」


「…………開けてみろよ」


 今さら、何を言っているというのだろう。

 ここまで連れてこられると、中に何があるのか気になってしまう。

 怖いもの見たさ。好奇心は猫を殺す。

 そんな言葉を知らないわけでも、ないだろうに。


「それでは……どうぞ、御照覧あれ」


「キャアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


「ッ……!?」


 モアが扉を開いた途端、女性の悲鳴が廊下まで響いてきた。


「そ、そんなに突いたらやらあっ! 壊れちゃうううううううううううっ!?」


 そこは寝室だった。

 部屋の中央にあるベッドで、男女が交わっている。


「ンアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


「そん、な……」


 男に抱かれて、喘がされている女の姿を見て……ガラムの顔が絶望に染まった。


「ルーガ……!」


 ベッドの上にいて、男に組み伏されていたのはガラムの腹違いの妹……ルーガだった。

 ルーガは背中から生えた白い翼を掴まれ、後ろから何度も突かれている。

 そして、よくよく見れば……ルーガを組み伏せて犯しているのは、ガラムを捕らえた男。つまりはヴァン・アーレングスだった。


「妹にな……ムグッ」


「静かにしてくださいませ。今、お兄様が楽しんでおられるではないですか」


 兵士がガラムの口をふさいだ。

 モアはガラムを窘めながら、ウットリとした目を女性とまぐわっている兄に向ける。


「外野として眺めて、改めて思いますが……さすがはモアのお兄様です。とても逞しいです」


「ッ……!」


 ガラムが抵抗するが、兵士達はガッチリと羽交い絞めにしている。

 獣人は人間よりも身体能力が高い種族だが……それでも、怪我をして満身創痍、おまけに複数の兵士に掴まれていては何もできなかった。

 限界まで見開いた両目を真っ赤に充血させて、ヴァンのことを睨んでいる。


「勘違いしないように言っておきますけど……お兄様は無理やり、犯しているわけではありませんよ?」


「ングウッ! ムグムグッ!」


「『妹が望んで抱かれているわけがないだろうが』……とか言いたいんですよね? その通りですよ」


 モアが肩をすくめて、恍惚とした表情で自分の頬を掌で撫でる。


「彼女……捕虜として連れ帰ってきたのですが、とても抵抗していたんですよ? だから、お兄様に叩きのめしていただいて、わからせてあげたのです。獣人というのは強い相手が好きなのですよね……すっかり、お兄様に懐いてしまいましたわ」


「ムグウウウウウウウウウッ!?」


「だから、本当に無理やりではないのです……ほら、彼女も嫌がってはいないでしょう?」


「ハアンッ! 兄者あっ!」


 モアの言葉に応じるように、寝室から甲高い嬌声が聞こえた。


「兄者あ、ごめんなさあいっ! ルーガは、ルーガはこの男のマーラに屈服しちゃったあっ!」


「ッ……!?」


「兄者の妹なのに、婚約者なのに、この御方には勝てないのらあっ! もう兄者の御子をうんであげられなくてごめんなのおオオオオオオオオオオッ!」


「~~~~~~~~!」


 ガラムが拘束されたまま、悶絶した。

 両目から真っ赤な血の涙が流れ落ちる。


「もしかしてだと思いますけど……堕ちたのが、あの子だけだなんて思っていませんよね?」


「ッッッッッッ!」


『もうやめてくれ』……首を振りながら、必死になって目で訴えてくる。


 だが……現実は残酷だ。

 ルーガの身体をひとしきり楽しんでから、ヴァンが手を伸ばして彼女達を引き寄せた。


「やあん……もうお腹いっぱいですう……」


「はふう……も、もうダメじゃあ……」


 扉からは見えなかったが……ベッドの下から引きずり上げられたのは、ルーガと同じく、ガラムの婚約者である二人だった。

 ヴァナとリザーはすでに全身を汗やら何やらで汚しており、クタンクタンに脱力している。


「もう、もう……許してくださあい……旦那様ああ……」


「あなたを主君として認めまする……だから、ご堪忍を……」


「…………!」


 二人はすでに、ヴァンに屈服していた。

 ルーガの前に抱かれていたのだろう。

 ガラムが一度として手をつけることがなかった花が、無残に散らされていた。


「ダメだ」


「やあんっ……!」


「あはあっ……!」


 二人は許しを請うが……ヴァンは容赦なく、彼女達を貪った。

 自分が愛した女達が、お気に入りの巨乳が自分以外の男の物になっている。


「嘘、だ……こんなの、ゆめにきまってる……」


 ガラムがヘナヘナとその場に膝をついた。

 両腕は兵士に押さえつけられているが、解放したとしても何もできまい。


「折れましたね……予想通りです」


 そんなガラムを見下ろして、モアが同情した様子で首を振る。


「所詮、モア達はこの世界に転生してきただけなのです。お兄様のような本物の英雄を前にすれば、奪われ踏みにじられ、喰われるだけ……」


 それが嫌ならば、捧げるしかないのだ。

 全てを差し出して、大いなる存在にするようにして慈悲を請うしかないのである。


 その後、ガラムは別人のようにおとなしくなった。

 モアの要求を全て呑んで……部族王の名の下に、大森林の異民族らにアーレングス王国への服属を命じた。

 前世の情報収集にも、魂が抜けたような顔で応じたのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る