第48話 援軍が到着したよ
ヴァンが砦に入ってからしばらくして、王都からの援軍が到着した。
援軍を率いてやってきたのはユースゴス・ベルン。軍事の責任者をしているヴァンの副官である。
「まったく……ウチの大将にも困ったもんだな。また独断専行するんだから、後からついてくるこっちは参るぜ」
砦に入ってくるや、ユースゴスはいきなりぼやいた。
面倒臭そうにしているが……その口ぶりはどことなく、慣れた様子である。
「ご苦労」
「はいはい、本当に苦労させられたぜ……近隣の村にはすでに避難を呼びかけている。町の警備も固めさせている。近隣の領主にだって兵を出させたから、異民族はこれ以上の北上はできないだろうよ」
「助かる」
痒い所に手が届くというのは、こういうことだろうか。
指示を出さずとも必要なことをしてくれた部下に、ヴァンが礼を言った。
異民族の襲撃は百年ぶりのこと。近隣の領主達も油断しきっていたようだが、それでも事情を聞けばすぐに協力してくれた。
すでに野心のある貴族は処分しており、残っている貴族は協力的な人間ばかり。
さらにいうと……ヴァンが敵対する貴族を容赦なく処罰することも羞恥となっているため、王の勘気を買わないようにすぐに動いてくれたようだ。
「ところで……お姫さん、じゃなくてメディナ王妃の姿が見えないが……もしかして、怪我でもしたのか?」
「ああ、奥で寝込んでいる」
「マジでか……村人を逃がしたって聞いたぞ。怪我してまで民を逃がすとか、なかなかに根性があるじゃねえか」
「ああ……メディナはすごい」
などと語る二人であったが……メディナが寝込んでいるのは怪我が原因ではない。
援軍が到着するまでの丸三日間、たった一人でヴァンの相手をしていたため、精根尽きて寝込んでいるだけである。
「さて、改めてだ。大将よお、今回の一件、どう見るよ?」
「…………」
「これまで、鳴りを潜めていた異民族が突如として、攻めてきた。こりゃあ、どんな裏があるかわかったもんじゃねえぜ」
異民族……獣人や半獣などと呼ばれる彼らは、これまで盗賊が村を襲う程度の襲撃はあれど、ここまで大規模な攻撃はなかった。
明かな異常事態。何か事態が変わったとしか思えない。
「いったい、連中に何があったと思う? 意見を聞かせてくれよ」
「知らない。何でもいい」
問うユースゴスであったが、ヴァンの答えは何とも淡白な物である。
「理由なんて、知らない。敵だったら殺せば済む」
「おお、そりゃあその通りだ。大将らしい答えで安心したぜ」
ユースゴスが愉快そうに肩を揺らした。
「まあ、大将はそれで良いと思うけどな。面倒事は裏方がやっておくぜ」
「助かるよ。いつも」
「構わねえよ……これから、良い夢を見せてくれよ」
「…………?」
「俺もそうだし、ロイドやアンタの可愛い妹もそうだ。みんな、アンタがどこまで飛躍することができるのか夢を見てるんだよ……期待してるぜ」
「…………」
ニヤリと笑って告げるユースゴスに、ヴァンが厳めしい顔で眉をひそめた。
「それじゃあ、真面目な話だ……これから、どうする?」
「決まっている。敵を殺す。奪われた物を取り返す……それだけだ」
ヴァンは残念ながら、あまり頭が良くはない。
前世の知識などを除いたとしても、妹と比べると頭の回転が明らかに鈍かった。
しかし、それ故に答えを出すときはシンプルである。
敵は殺す。叩き潰す……それしか考えていないし、そうと決まれば確実に実行するのだ。
「なるほどな。それじゃあ、そのための戦略を詰めるとしようぜ……まったくもって同情するぜ、異民族共にはよ」
「地下に捕虜がいる。それと、メディナの護衛が情報を集めてくれている。必要だったら、使うと良い」
村を襲い、略奪していた彼らはすぐに返り討ちに遭うことになるだろう。
長年、森に閉じこもっていた彼らは、ヴァン・アーレングスという英雄のことを知らない。
そして……これから、二度と忘れることができないほど思い知らされることになるのだろう。
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