第39話 こっちの妹も歪んでいる
『……わかった。ならば、僕も一緒だ』
『貴女だけを犠牲にしたりはしない。獣の前に身を投じるのならば、僕も共にゆこう』
「お姉様……」
姉が口にした言葉を思い出して、エルダーナは胸に手を当てて溜息を吐いた。
場所はアーレングス王国の王宮の一室。エルダーナが寝室として与えられている部屋だった。
エルダーナはいかにもそういう用途の服であるとわかるような、扇情的なネグリジェを身に着けている。
これから、この部屋にヴァン・アーレングスがやってくることになっていた。
「お姉様……私は最低ですね」
エルダーナが悲しそうにつぶやいた。
姉のシャーロット・ゼロスの姿はここにはない。
ロットは湯あみに行っており、すぐに戻ってくるだろう。
エルダーナとロットは二人して、抱かれることになっているのだ。
(私はわかっていた……私がヴァン国王陛下に抱かれると宣言すれば、姉が自分も一緒にと言い出すことは)
知っていながら……エルダーナはそれを選択した。結果的に姉を陥れることになると予想しながら。
エルダーナは姉のことを愛していた。
誰よりも深く、何よりも強く。
だから、望んだ……姉と一緒に抱かれることを。
そうすれば、間接的に姉と繋がることができるから。
エルダーナはゼロス王国において、必要とされていない人間だった。
国王の八番目の子供であり、王位を継ぐことはほぼ不可能な立ち位置。
武術や魔法の才能もなく、政治に関われる地位でもなく……突出しているものといえば、優れた容姿だけ。
それでも、容姿が優れているならば政略結婚に使い道がある。
そのはずなのだが……数年前に起こったとある事件によって、その価値も地に堕ちた。
凌辱されたのだ。
血のつながった、実の父親に。
父親であるゼロス王によって身体を嬲られて、処女の証を失ってしまった。
ゼロス王はエルダーナの母親を溺愛していた。
激しく求めるあまり、彼女を死なせてしまうほどに。
だから……エルダーナのことも愛した。成長していく娘が徐々に母親に似てきたから。
その忌まわしき事実を知る者は少ない。
国王の側近数名だけであり、ロットや他の兄達も知らなかった。
幼くして処女を失った……おまけに、父親に凌辱されたとなれば、もはや政略結婚の駒としての価値はない。
迂闊に他国に出してしまえば、国王の醜聞が漏れてしまう。
そのため、エルダーナは掌中の珠として王宮の中に閉じこめられ、わずかな人間とだけ顔を合わせる生活となったのだ。
そんな生活の中、エルダーナが姉を慕うようになったのは必然のことだった。
父親を含めた、男性を嫌うこともまた同様である。
姉だけが自分を大切にしてくれた。家族として純粋に愛してくれた。
父親やジークオッドのような歪んだ愛情ではない。純粋な愛情を与えてくれた。
(だから、この状況は私にとって悪くはない。だって、お姉様と一緒に抱かれることができるのだから……)
エルダーナは自分が歪んでいるとわかっていた。
敵国の王に姉妹で身を投じることに、どこか興奮を感じていることも自覚している。
(お姉様、ごめんなさい……お姉様が王太子という地位を失っていることを。私のところに堕ちてきてくれたことを喜んでしまっている、愚かな妹をお許しください……)
「待たせたな、エルダーナ」
寝室の扉が開いて、ロットが入ってきた。
ロットは湯上りで肌を朱に染めているが、エルダーナとは違ってエッチな服は着ていない。
「ああ……やはり、僕もそういうのを着るべきなんだろうな……」
「先ほど、モア妃様が届けてくださいましたよ……よろしければ、お手伝いします」
「ウウッ……すまない、僕が戦で負けなければこんなことに……!」
苦渋に満ちた顔をしているロットに、エルダーナは申し訳ない気持ちになった。
「良いのですよ、お姉様……私は少しも自分が不幸だとは思っていませんから」
強がりではなく本心からそう口にして、エルダーナは姉を着替えさせるべく椅子から立ち上がったのである。
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