第32話 妹ちゃん、隣国に勝っちゃったけどどうしよう?
ヴァンと副官のユーステスがゼロス王国の軍勢を撃破して、王太子であるロットの身柄を拘束した。
ヴァン達が帰還すると……王城の中でも、戦後処理をしている最中だった。
何人かの文官が忙しなく走り回っており、その中心には見慣れた人物がいる。
「ただいま」
「も、戻ったのか……ヴァン・アーレングス……」
声をかけると、忙しく働いていた様子の女性……メディナが振り返って顔を引きつらせた。
メディナはすでにヴァンの妻となっており、何度となく身体を重ねているが……いまだに突発的に顔を合わせた時には微妙な反応をする。
親兄弟を殺した男を前にしているのだから、無理もない反応ではあった。
「何をしている?」
「反逆者の後処理だ。デニリー伯爵が王都を攻めてきたので、捕縛してきた彼らの一族の処遇、没収してきた財産の処理などだな」
「ああ……やっぱり、動いたのか」
ヴァンが溜息交じりに言う。
ゼロス王国が攻め込んできたタイミングで、内応して国内の反乱分子が動くのは予想ができていた。
むしろ……攻め込んできたのがデニリー伯爵だけなのが意外なくらいだ。
「そうか……こちらも失敗したのか……」
ロットが渋面になった。
やはり、反乱をそそのかしたのはロットのようである。
「ん……そちらはまさか……?」
「ロット・ゼロス殿下だ」
「…………!」
メディナが目を見開いた。
ヴァンがゼロス軍を迎撃に行ったのは知っているが、勝利して帰っただけではなく王太子まで捕虜にしてきたのは予想外だったのだろう。
「……さすがとしか言えないな。やはり、君を敵にしてしまったのがアイドラン王国の運の尽きだったのか」
「ロット殿下を適当な部屋に閉じこめておいてくれ。他の捕虜は地下牢で良い」
「承知した。一応、ロット殿下には客人としての待遇を与えよう」
王族の応対の仕方など、ヴァンは知らない。
ここはメディナに任せておいた方が良いだろう。
「部屋の中では自由にしてもらって構わないが……監視は置かせてもらう。問題ないだろうか?」
「……構わない」
メディナの言葉にロットが短く答えた。
ヴァンだったら、敵の王城に幽閉された状態でも脱出は容易だが……ロットには不可能だろう。
「モアは?」
「執務室にいるよ。ちなみに……リューシャは騎士団を引き連れて残党狩りをしている」
「そうか……ありがとう」
ヴァンはメディナを労ってから、ロットを預けて執務室へと向かった。
「モア、入るぞ」
「ああ、お兄様。お帰りなさいませ!」
モアが入室すると……執務室の机で仕事をしていたモアが立ち上がった。
この執務室の主はヴァンなのだが、事実上、モアがあらゆる政務を行っている。
ヴァンがやることなど、モアの決定を追認して書類にサインをするくらいだった。
「モア……」
「はい、お兄様」
ともあれ……モアと二人きりになったヴァンはいつものように飛びついた。
「妹ちゃああああああああああああん! またいっぱい、人を殺しちゃったよおおおおおおおおおおっ!」
「あんっ」
モアに抱き着くと……甘い声が上がった。
「しかも、今度は相手の王太子殿下を捕虜にしちゃったよ……どうしよう、これが切っ掛けで隣の国との関係が悪くなっちゃったら……」
「はいはい、それは大変でしたね。怖かったですねー」
そもそも……戦争を仕掛けてきたのはアチラである。
関係が悪くなるだなんて、今さらな話であった。
「大丈夫、大丈夫ですよ。お兄様」
モアは慈悲深い表情を浮かべて、兄の頭を胸に抱いた。
「大丈夫……私に任せておけば全て安心ですからね。任せてもらって大丈夫ですよ」
「妹ちゃん……」
「私の言うとおりにすれば、全部全部、上手くいきますからね……モアに任せてくださいね?」
愛しい兄の頭を撫でながら、モアは至福の笑顔で断言したのであった。
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