第28話 騎兵隊は翻弄する

「征け、ゼロスの勇敢なる戦士達よ! 敵軍を駆逐せよ!」


 そして……戦争が始まった。

 アーレングス王国建国より一ヵ月。初めての戦争である。


 開口一番。

 ゼロス軍の騎兵部隊が平原を駆け抜ける。

 三千もの騎兵が駆け抜けると、地鳴りのような音が鳴り響く。


「敵はたったの百だ! 抵抗する隙を与えずに叩き潰せ!」


「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」」」」」


 指揮官の指示を受けて、騎兵隊が馬を駆る。

 ランスのような形状の槍を構えて、たった百人のアーレングス軍に襲いかかろうとした。


「走れ!」


 しかし、アーレングス軍も黙ってはやられない。

 彼らもまた馬を駆り、平原を走り抜ける。


「なっ……!」


 そのあまりにも機敏な動きに、ゼロス軍は驚愕した。

 まるで疾風が通り抜けるようなスピード。

 その圧倒的な機動力はゼロス軍とは比べ物にならなかった。

 正面から突っ込んできたゼロス軍の横をすり抜けて、あっさりと躱していく。


「今だ……撃て!」


「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」」」」」


 そして、ゼロス軍の横から弓矢を浴びせかける。

 たった百人とはいえ……素早く強烈な弓にゼロス兵の一部が馬から転がり落ちた。


「クッ……追いかけろ! 反撃だ!」


 ゼロス軍の騎兵が方向転換をして、アーレングス軍を追いかける。

 しかし、その時にはアーレングス軍はその場にいない。

 遠く離れた位置に移動しており、そこからまた弓矢を射かけてくる。


「ギャアアアアアアアアアアアッ!」


「な、何だよ! アイツら……どうして、こんなに素早く動けるんだ!?」


 アーレングス軍はゼロス軍を翻弄して、縦横無尽に平原を駆けまわっている。

 まるで人と馬が一体になっているかのようだった。

 ゼロス側も少数に分かれて追いかけようとするが、そうなったら各個撃破されるだけで、どんどん兵士が倒されていく。


「あり得ない……こんなスピードが出せるものか……!」


 ゼロス軍の部隊長が歯噛みをした。

 軍隊というのは数が多いほどに有利。それは自明の理である。

 しかし、少なければ少ないほどに移動は容易になり、素早く行動することができるのだ。


「それだけであの速度は説明がつかない……! まさか、アイツら……魔術師なのか!?」


『魔術師』というのは実戦的に魔法を使用することができる人間を指す。

 マッチのような火を着けられる『魔法使い』であれば山ほどいるが、戦場で戦いに役立てるほどの魔術師は一握りしかいない。


「よし……横を走り抜けろ!」


 アーレングス軍はそうしているうちにもゼロス軍の後方に回り込み、兵士達の背中を攻撃する。


 部隊長の予想は当たっていた。

 アーレングス軍の百人の騎兵……彼らは全員が魔術師によって構成されていたのだ。

 馬に脚力と体力を上昇させる魔法をかけることにより、潜在能力を超えたスピードを引き出しているのである。


「そうか……だから、百人しかいないのか……!」


 アーレングス軍は全員を魔術師にすることにより、あり得ないスピードを手にしている。

 数千、数万の兵士を率いていては不可能な作戦だった。


「損耗がどんどん増えています! 隊長、どうか指示を!」


「落ち着け! 敵はあくまでも少数……被害は軽微だ!」


 だが……種がわかってしまえば、対処は可能である。

 どんなに強力な魔術師であっても、永続的に魔法を使用することは不可能なのだから。


「これだけの魔法を使い続けることなどできるものか! 一纏まりになって損傷を減らしつつ、確実に追い詰めろ!」


 ゼロス軍には被害が出ているが、全体の一パーセント程度の損傷である。

 無視はできずとも、すぐに軍が瓦解するような被害ではない。


「焦るな、ゆっくりでいいから確実に追い詰めるんだ! 我が軍の勝利まであとわずかである!」


 部隊長の叫びを肯定するかのように、徐々にではあるがアーレングス軍のスピードが鈍っていった。

 戦闘が始まってから、まだ半時。

 いまだ、勝敗の決着は両者の手から遠い場所にあったのである。

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