第23話 女子会をしているよ

 戴冠式が終わり、結婚式も終わって……ついでに三人の妃との初夜も終わり。

 かくして、ヴァン・アーレングスは名実ともにアーレングス王国の国王となった。

 

 かつてアイドラン王国と呼ばれていた国は、ほぼ完全にヴァンによって掌握されている。

 国内の貴族の大部分がヴァンに忠誠を誓っていた。

 胸の内までは知らないが……少なくとも、表立って抵抗する人間はいなくなっている。


 また……ヴァンの下には、連日のように国中から多くの人間が集まっていた。

 新たな国王に仕官を願い出る者達である。

 アーレングス王国の前身であったアイドラン王国は権威主義が強く、下層階級の出身者への風当たりが強かった。

 そのため、能力があっても芽が出ない人材が大勢眠っていたのだ。

 そんな人材が平民でありながら、王になったヴァンの下に集っている。

 税率も大幅に下げられており、多くの国民が国が良くなっていくのを肌で感じていた。



     〇     〇     〇



「さて……それでは、アーレングス王国『裏・淑女会議』を開催いたします」


 そんな中で、王宮の一室で奇妙な集まりが開かれていた。

 カーテンが閉められた薄暗い部屋の中には、蝋燭のオレンジの光が灯されている。

 部屋の中央には大きな円卓が置かれており、いくつかの人影が椅子についていた。


「皆様、本日はお集まりいただき感謝いたします」


 話を切り出したのは、円卓についている一人の女性だった。

 長い黒髪を背中に流しており、顔の上半分を白色の仮面で隠している。


「本会議の議長を務めさせていただきます、私の名前は……そうですね、仮に『ブラック』とでも呼んでください」


「あの……モアさん? ちょっと良いですか?」


 円卓についている別の女性が控えめに挙手をした。

 その女性もまた仮面をつけており、銀色の髪をポニーテールにして結っている。


「私のことは『ブラック』と呼んでください。『シルバー』さん」


「あ、私は『シルバー』なのですね……それはともかくとして、今日は女性だけで大切な用事があると聞いてきましたが」


 銀髪の女性……『シルバー』が困ったように苦笑する。


「どうして、私達は仮面をつけているのでしょう。正体を隠すようなことは何もないと思いますが……?」


「気分ですよ。気分」


「気分……」


『ブラック』の答えに、『シルバー』が微妙な表情になる。

 仮面のせいで、表情の変化はあまり表に出てはいなかったが。


「そうですね……それでは、挨拶もそこそこですが本題に入りましょう。皆様に集まっていただいたのは、お兄様……じゃなくて、ヴァン・アーレングス陛下の『伽』についてです」


「「…………!」」


 一同から、緊張した空気が生じる。

 円卓についているお互いの顔を窺うようにして、身じろぎをする。


『伽』というのは、つまり夜伽のこと。

 国王であるヴァンとの夜の営みについてである。


「さて……ここにいる皆様は陛下のお手付きになっています。今さら、隠すことではありませんね」


「つまり……貴女は世継ぎについて話がしたいんだな?」


 先ほどとは別の女性が声を発する。

 美しい金髪の持ち主であり、もちろん、仮面をつけていた。


「誰が産んだ子供が次期国王となるか……それを話し合うために私達を集めた、違うか?」


「違います。大ハズレですよ、『ゴールド』」


「へ……?」


『ゴールド』と呼ばれた女性がビシリと指摘するが、『ブラック』があっさりと首を振る。


「まだ生まれてもいない子供の格付けをしても仕方がありませんよ。子供は天のもらい物ですし、優秀であるかどうかもまだわかりませんからね」


「な、ならば、『伽』というのは……」


「私が話したいのは……いえ、提案をしたいのは、陛下の妃を増やすことについてです」


「増やすって……まさか!」


「もしかして、四人目の妃を娶るというのでしょうか?」


『ゴールド』と『シルバー』が同時に驚きの声を上げる。


 国王であるヴァン・アーレングスにはすでに三人の妃がいる。

 結婚式を挙げてからそれほど日も経っておらず、あえて妃を増やすような段階ではない。

 それなのに……どうして、あえてそんな提案をするのだろうか。


「だって……そうではないですか、皆さん」


『ブラック』が溜息を吐く。

 それはもう……疲労に満ちた溜息を。


「だって……このままでは、身体がもたないですよ! 三人だけでは、お兄様を受けとめきれません!」


「「…………!!」」


 その言葉に激震が走った。

 見当違いのことを言われたからではない。

 むしろ……これまで三人が思っていたが、あえて口に出さなかったことを指摘されたからである。

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