妹ちゃんは転生者 後編
酒を飲んだお兄様は何というか……すごかった。
正直、半分くらいは私にも責任はあります。
私も今生で初めての飲酒にハシャイデいて、面白半分に服をはだけて、お兄様を揶揄ってしまいました。
お兄様のことは家族以上に好きだったし、村の男よりは一番将来性もあると思っていたので、まあ既成事実ができたならそれでも良いかという甘い考えを持っていたのです。
しかし……すぐに間違いを悟ることになりました。
お兄様の中には獣が……否、武神や闘神とでも呼ぶべき暴力的な衝動が眠っていたのです。
アルコールによって解放されたそれは、すぐ近くにいた私の身体に向けられることになり……そこから先は筆舌しがたい展開です。
エッチなことをされて篭絡されるだなんて、そんなのは男性の都合の良い本の中の出来事だと思っていたのに。
私は一晩で完全に屈服して、その日から「兄さん」から「お兄様」に呼び方を変えることになりました。
「お、お兄様……都会に行きましょう。お兄様はこんな田舎にいてはいけません……もっと広い世界に旅立たなくては」
「え? 急にどうしたのかな、妹ちゃん?」
「お兄様はもっと大きなことができる人間です。こんな田舎で燻っていてはいけません……飛べるところまで飛ぶのです!」
よく考えてみれば、わかることです。
訓練を受けているわけでもないのに、素手でクマを倒せる人間が普通であるわけがありません。
魔法が存在する世界だから感覚がマヒしていたが……お兄様は十分に化物だったのです。
「う、うん。都会は怖いけど……妹ちゃんが言うのならそうするよ。妹ちゃんはいつだって正しいから」
私が強く勧めると、お兄様は納得してくれました。
アレコレとした罪悪感のせいで、ますます私に逆らえなくなっていたからです。
「お兄様は私に従ってくれている……だけど、本当はこんなものじゃない……!」
お兄様は……ヴァン・アーレングスは物語の主人公。
ただの転生者でしかない私など、お兄様の飾り役でしかなかったのです。
お兄様を活躍させるためにも、私は全力で支えなくてはならないのでしょう。
私の予想通り、王都に出て騎士として仕官したお兄様は瞬く間に出世していきました。
騎士団に入団してからわずか一年で小隊長。さらに二年後には中隊長にまで繰り上げです。
盗賊団を一人で壊滅させたり、ドラゴンを剣一本で討伐したり……物語でしか聞いたことがないような英雄譚を地でやっていきました。
貴族からは疎まれていたものの……それを補って余りあるほどの実力に恵まれていたのです。
そして……中隊長になって、最初の任務が『ロイカルダン平原の戦い』への参陣。
そこで活躍し過ぎたことにより、王太子から疎まれて左遷が命じられることになる。
「い、妹ちゃん! どうしよう……俺、騎士団をクビになって左遷されちゃうよ!」
理不尽な処分を命じられて、お兄様は私に泣きついてきました。
「左遷先は北国の寒い場所だって! どうしよう……俺、寒いの苦手なんだよう……!」
「…………」
きた。
とうとうやってきた。
この瞬間が……お兄様が天に向かって羽ばたく時が。
「お兄様、大丈夫です……私に良い考えがあります」
私だって、この時のために準備をしてきたのです。
図書館に通って知識を蓄え、商人や神官などの有識者と対話して人脈を築いてきました。
「お兄様……前に言っていましたよね、この国の王族が民を虐げているって。どうにかしたいけど、自分には何もできないって」
「う、うん……言ったけど、それがどうかしたのかな?」
「だったら……簡単なことです。民を救い、左遷も回避する簡単な方法があります」
「え……?」
自分に抱き着いて泣いている兄へと……私はそっと、その言葉を告げました。
「反乱、起こしましょうか?」
私が持っている知識は……前世の記憶も含めて、全知全能はお兄様の飛躍のためにあります。
この御方を世界に連れていく、そのために私は日本から生まれ変わったのだと確信いたしました。
アイドラン王国が滅亡するのは、それからわずか一ヵ月後のこと。
お兄様の覇道は……そして、お兄様を世界一の王にする野望は第一歩を踏み出したのでした。
さて……これで私の生い立ちについての説明は終わりになります。
次回はお兄様が英雄となった戦い……『ロイカルダン平原の戦い』について語らせていただきましょう
え?
過去編ばかりでつまらないって?
ご安心ください……その『ロイカルダン平原の戦い』こそ、次なる戦いのきっかけとなるものだったのです。
それでは、語りましょう。
北の隣国であるゼロス王国との戦い。
絶望的な戦況の中で、たった百人の兵士で戦況を変えたお兄様の戦いぶりを。
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