妹ちゃんは転生者 前編

※妹ちゃんの一人称でのエピソードになります。

 読み飛ばしても問題ありません。


 さて……皆様、お楽しみいただけましたでしょうか?


 こうして、私の敬愛するお兄様はアーレングス王国を建国して、覇王の道を踏み出したのです。

 ここから、全ては始まった。

 いずれ大陸を席巻して、千年先の歴史書にまで刻まれることになるであろう英雄譚の幕上げとなったのです。


 これで終わり?

 とんでもない。まだまだ続きますとも。

 お兄様の真の活躍はこれから。今までのお話はほんの序章に過ぎません。


 語り部は引き続き、わたくし。

 お兄様の寵愛を受けし妹にして、『転生者』でもあるモア・アーレングスがお送りいたします。


 さて、続きましては……一度、過去に戻りまして、お兄様がかつて『最強の騎士』と呼ばれるようになったエピソードを紹介いたしましょう。

 過去であり、そして未来につながるであろう物語を。


 ……え?

 そんなことよりも『転生者』って何のことだって?


 ああ。なるほど、なるほど。

 そこも説明していませんでしたね。


 それでは、ついでにお話いたしましょう。

 私がこの世界に転生して、いかにしてお兄様を主君と認めたかという話を。



     〇     〇     〇



 私には前世の記憶があります。

 前世において、私は日本という国に住んでいた大学院生でした。

 学部は人文学部。人間の歴史や文化の発展などについて研究をしていました。


 どうして、この世界に転生したのかはよく覚えていません。

 日本にいた最後の記憶として……駅前を歩いていたところで、帽子とサングラスの男が急にぶつかってきたところまでは覚えています。

 もしかすると、あの男がストーカーとか通り魔で刺されて死んでしまったのかもしれませんね。

 何とも、人生というのは儚いものです。


 ともあれ……気がついたら見知らぬ場所で母親らしき女性に抱きかかえられていた私は、すぐに自分が異世界に転生したことに気がつきました。

 最初はどこか外国の可能性もあるとも思っていたのですが……この世界の人間は暖炉に火を着けるときなど、普通に魔法を使っているのです。

 おかげで、すぐにここが日本どころか地球のどこでもないことに気がつきました。


 いや、正直なところマジでビビりましたよ。

 ネット小説やらライトノベルやら、アニメやらは嗜んでいましたが……オタクを名乗れるほどの知識はありません。

 ファンタジーな世界に生まれ変わり、自分が何をすれば良いかなどさっぱりわからなかったのです。

 俺TUEEなチートもなく、あるものといえば前世の知識くらいのもの。

 ひとまず、平和に生きてそれなりに収入のある男と結婚でもできれば良い……そんな低いこころざしから、私の異世界生活はスタートしたのです。




 さて……ここで私の家族について紹介をしたいのですが、最初に私は実子ではないことを述べておきましょう。

 私の両親はかつてアーレングス家に仕えていた家臣であるらしく、忠臣であった親が亡くなったことを憐れんで、養子として引き取られたのです。


 そもそも、アーレングス家は下級貴族の家系でした。

 アイドラン王国に仕えているそれなりに古い家だったのですが……寄り親にしていた大貴族が権力闘争に負けたことで、巻き添えで没落しています。

 平民落ちしたアーレングス家は田舎の集落に引っ込み、細々と目立たぬように生きていくことを強いられたのです。

 私の両親はアーレングス家が没落してからも仕え続けた忠臣であり、盗賊から当主夫妻をかばって命を落としました。

 そして……私が引き取られることになったのです。


 正直、私が生まれてすぐに死んだ両親には色々と言ってやりたいことがあります。

 我が子がいるのに他人のために命を投げ出すなとか、没落した主人に未練たらしくついていくなとか。

 雇用主が給料払えなくなったのに無給で仕え続けるとか、甘ちゃんのお人好しかよと言ってやりたくなります。


 まあ……そのおかげで、お兄様と出会えたのですから良しとしましょう。うん。


 それに……アーレングス家の夫妻はそれなりに良い主人だったのだと思います。

 少なくとも、忠義を尽くした臣下の子供を引き取って、自分の子供として育てることにしたのですから。


 さて……こうして、没落貴族の末っ子として生きていくことになった私ですけど、正直、ウチの兄達はお兄様以外はロクデナシでした。


 まず、長男。

 この男は自分が貴族であるという特権意識が抜けていない。

 私が使用人の子供であることを理由に奴隷のように扱い、ことあるごとに威張り散らしていました。

 普通に善良な両親からは叱られていたのだが、いくつになっても改善する様子がない。

 おかげで、暮らしている村の住民からは煙たがられていました。

 優しい両親から、どうしてこんな男が生まれたというのでしょう。

 そんなに貴族でいたいのなら、手柄を挙げて爵位を取り戻してみろよと言いたくなります。

 実際に言って、殴られたこともあります。

 報復として、食事にお腹を壊す草を入れてやりました。


 次に次男。

 この男は股間で物を考えている色ボケ。住んでいる村の女の子にことあるごとにちょっかいをかけています。

 田舎の村なのだからエッチなことをするくらいしか娯楽がないのはわかっていますけど、だからといって二股、三股をかけるのは違うでしょう。

 婚約者がいる村長の娘にも粉をかけて、手ひどくフラれていましたし……挙句の果てに、妹の私にまで手を出そうとしてくる始末。

 暗がりに連れ込まれた際に護身用に持っていたナイフで男性器を切ってやったら、南国の鳥のような奇声を上げて近寄らなくなりましたけど。


 そして……三男。

 彼こそが、私の敬愛しているお兄様。

 ヴァン・アーレングス……後に、私が誰よりも愛して尊敬することになるお兄様です。

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