第18話 宴の後だけど本番だよ
パレードが終わり、続いて王城で結婚式と戴冠式が行われた。
ヴァン・アーレングスが正式に国王となり、三人の女性を王妃として娶ることになる。
式典には国内からの有力者はもちろん、他国からも来賓が招かれており、それはもう盛大に行われた。
大勢の人間から祝福を受けることになったが……彼らが全員、本心から祝っているわけではないことはわかっている。
面従腹背。ヴァンを王として認めてはいるものの、どうにか引きずり下ろす機会を虎視眈々と狙っている者がいる。
あるいは……パレードで屋根の上にいた射手のように、もっと直接的に命を狙っている人間も。
「フー……すごく、緊張したよお」
何はともあれ……緊張から解放されて、ヴァンは安堵した様子で両手を天井に向けて伸ばす。
着慣れないタキシードの胸元が緩められており、鋼のような硬さの胸板がわずかに覗いている。
ヴァンがいるのはいつもの執務室だった。
これからの準備のために時間があったので、少しだけ戻ってきたのだ。
「お疲れさまでした。お兄様」
ウェディングドレスからワンピースに着替えたモアが果実水を手渡してくれる。
ヴァンはそれを一息に飲み干して……「フウッ!」と大きく息を吐き出した。
「緊張で転んだらと思ったら、気が気じゃなかったよー。本当に何事もなく終わって良かったね」
ヴァンが「ヘラッ」気の抜ける笑顔になった。
モアにとっては、長年、慣れ親しんだ兄の顔である。
「暗殺されそうになったのに、『何事もなく』とはさすがお兄様です。モアは感服いたします」
パレードの最中、ヴァンは何者かによって弓で射られそうになっていた。
警備の騎士が気がつく前に、ヴァンが自ら成敗したのだが……言葉無き骸となった彼が何者であるかは調査中である。
あの射手以外にも、警備の人間に不審者が何人か逮捕されていた。
いずれも背後関係を調べており、正体が明らかになるのはまだ先である。
「うんうん。ああして直接的に狙ってきてくれると助かるよねー。水面下で悪いことをされたらどうしようもないけど、姿を見せてくれるのなら殺せば済む話だから」
「…………」
暗殺者に対して、「殺せば済む」などと軽く片付けることができる人間がどれほどいることだろう。
改めて、ヴァンという覇王の器量を見せつけられた気分である。
「……まあ、お兄様にとっては軽いことなのでしょうね。それじゃあ、重い話をしましょうか」
モアが苦笑しつつ、意地悪そうな表情になる。
「わかっていると思いますけど……結婚式はまだ終わっていませんよ? 国王として、もっとも重要な仕事が残っているのはわかってますよね?」
「わ、わかってるよ……」
ヴァンがわずかに上体を逸らす。
忘れていたわけではないだろうが、意識の外に追いやっていたことを突きつけられて動揺してしまったようだ。
「それじゃあ、結構ですわ……ああ、これは必要ですよね?」
モアが棚からビンを取り出した。
それはヴァンが愛飲しているブランデー。かなり度数の高いものである。
「一杯、キュッとやっていきますか?」
「……ううん、いいよ。今日は止めておく」
ヴァンがフルフルと首を振った。
予想外の反応に、モアが不思議そうに両目を瞬かせる。
「良いんですか? アルコールを入れなくても?」
「うん……今日はちゃんと、自分で向き合ってみるよ。大切な夜だもの」
「そうですか……」
モアが嬉しそうに相貌を緩める。
頬を薔薇色に染めて、ヴァンの手を引いて隣の部屋に向かう。
「わわっ!」
「もう、準備もできているでしょう……いきましょうか、お兄様!」
執務室の隣にあるのは寝室である。
かつて国王が使い、そして……現在はヴァンとモアが共用で使っている部屋。
そこには二人の女性が待ち構えていた。
「あ……き、来たのね……ヴァン・アーレングス」
一人目は金色の髪で、凹凸に富んだ豊満な身体つきの持ち主……メディナ・アイドラン。
扇情的なデザインの赤いネグリジェに身を包んでいる。
「お待ちしておりました。ヴァン陛下」
二人目は白銀色の髪を下ろしたスレンダーな身体つきの持ち主……リューシャ・ウルベルス。
こちらもまた、扇情的なデザインの白いネグリジェに身を包んでいる。
「あ……えっと……お待たせ」
ヴァンがやや緊張しながら、二人に聞こえるか聞こえないかくらいの声量で言う。
その恰好から、お察しのように……彼らはこれから初夜を迎えるところだった。
初夜とはいったものの、ヴァンはすでに三人の女性と他人ではないような行為をしている。
今さら、緊張することもないのだが……同時に三人を相手にするのは初めてのことだった。
「お兄様、それでは始めましょうか?」
ヴァンの隣でモアがスルスルとワンピースを脱いで、下着姿になっている。
こちらは黒色。バストトップと陰部しか隠れていない、とんでもないデザインだった。
「今夜はお酒も飲んでいませんし……負けませんよ、お兄様!」
「あう……」
ヴァンは顔を引きつらせながらも、逃げることなく妹の挑戦を受けて立った。
結論を述べるのであれば……ヴァンは酒を飲まなくても怪物だった。
むしろ、酔っぱらっていない分だけ冷静に責めることができたらしい。
三人の美姫は全身くまなく貪られてしまい、翌日はベッドから起き上がれないくらいに疲労困憊することになるのであった。
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