第16話 迷宮入りしたらすぐ資金洗浄
迷宮の階段を降りたらすぐに現れたのが小さな祠のある池だった。クララは池のほとりにすわると身代金の札束をゴシゴシと洗い始める。案の定、祠には「銭洗弁財天」と書いてある。余裕ぶっこいてないでさっさと攻略しちゃおうよ~。ロサもチヒロも真面目に洗っている。
なんとなくそれが当たり前のように先輩たちがやっているのだから、普通の集団なら黙って同じ事するのが身のためなのだが、この組織で意味をわからずに何かをやると説明を求められ、その合理性を説明できなかったりすると
わからないならまず聞けって言葉は、間違えたあと余計に怒るための言い訳で普段から聞いたら怒ったりバカにされる組織ではなく、ここの場合は聞いたら本当に教えてくれる。明らかに合理性のない迷信でしかない事を空気読んでやる奴は敵なのだ。
「チヒロさん、これなんの意味があるんですか?」
あぁ、これな……と説明してくれた。
最近の紙幣は電子個体識別が埋め込まれてて、財布などにしまったまま検知器を通るとすぐにどこにいるかわかってしまうので、個体識別の記録を破壊しているとのことだ。
紙幣が水没することや折り返されて電源コイルとチップが断然することも普通のことなので壊れても紙幣としては有効性は失われないがあちらさんの仕掛けは機能しなくなるということで、資金洗浄のイロハのイらしい。
なるほど、たしかに皆決まった場所を折り返し水没して擦ってる。壊し方聞かないで適当にやったらスパイ呼ばわりされるか
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシ……
思ってたのと違う。
結局五人で丸一日かけて資金洗浄を完了した。銭洗弁財天の池はどす黒く濁っていた。帝国資本主義が人々をすりつぶし紙幣が生き血を吸っていたその穢れが落ちたのだろう。あの汚染され邪悪で呪われた政府が跡形もなく浄化されますように。
その日は迷宮の中で野営することになった。目を閉じればそこにまだ未洗浄の札束が出てくる。山程のお金の夢なので前提がなければ気持ちの良い夢のはずだが、もう洗浄する仕事の対象としてしか紙幣を見れなくなっていて、大量の、銀色のタグがまだピッカピカのままのピン札の夢が悪夢にしか思えない、深いトラウマを受けた。
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