第14話 身代金要求

 傀儡獣人王国の大臣クラス5人を人質に取り、ロザの一行は迷宮からほどよく離れた飛行魔道具の当初の目的地である空港へ降り立つ。

 これから交渉開始だ。機内でアンケートを配る。イアンの初仕事である。革命の目的への賛同の意思確認、あるいは降りるか同志としてともに革命を目指すのか。人質には獣人国の政府首脳である外務大臣の豚野郎と王子にして首相秘書官のメガネザル四世、内務大臣のハイエナ、財務大臣の狸ジジイ、官憲の走狗がが居た。飼い主にとって使い勝手が良い、とっておきの上玉だ。やすやすと見捨てられることはないことはわかってる。交渉の出汁に使う順番が大事。初めから真打ち登場では、積もりに積もった怨みをぶつけることなく解決してしまいそうでそれではだめなのだ。はじめは雑魚から交渉して、可能な限り政府の強硬派の声を出させておいて、あとから重たいのが出てくるのが良い。とはいえどの便に誰が乗っているかは管理されているから、あたかもトンズラに成功した体を見せて強硬派を引き出した後で、じつはトンズラ出来てませんでしたって形で出す。そのためにはSPとして潜伏させていた第五列に一芝居打ってもらう。

 SPの無線で逃げた事を報告させる。すぐ横には猿轡された大臣と王子。実にいい反応だ。身辺警護してたのがこっちの手のものだとは夢にも思わなかったのかね。建国1ヶ月でよくそう簡単に人を信用できるな、ある意味尊敬するよ。そもそもお前らの同好会みたいな政府を政府と認めてるほうが少数派だろう。

 さて、先鋒は官憲の走狗。交渉役はイアン。航空無線で交渉開始!裏ではラジオもつけている。ラジオでは大臣、王子の逃亡成功を報じている。

「要求は身代金160億と次の目的地への飛行魔導機の借用だ。ここには大臣、王子ともに人質に取っている。要求に応じない場合、1人ずつ殺害する。」


ラジオでは、屈したら模倣犯が続く、ここは絶対に折れるな、特殊部隊で制圧しろという意見がコメンテーターから異口同音に出てくる。そう。それでいい。


「再度言う。大臣4人と王子はこの機内に確保してる。要求に応じない場合1人づつ殺害する!」


もちろん誰も信じないが、それでいい、いやそれが良い。さて、ここいらで次鋒の豚野郎あたりに命乞いさせてやろう。もちろん同時に、SPたちに「録音だ」と別チャネルの無線で言わせる。


 身代金払う意思皆無の論調に対して、顔面蒼白ガクブルしてる豚野郎の命乞いはなかなかイイ声だ。

「た、助けてくれ!身代金は必ず公共事業の発注という形で税金から払うから!!」


 こいつ、ある意味筋金入りだなw。

ラジオは、もしも本当だとしてと前置き付きで結局さっきと同じ絶対に折れるな、特殊部隊で制圧しろの論調だ。SPからの陽動が効いてる効いてる。つまり、彼らはトンズラしてるという確信を持って強硬論を吐いているのだ。


「お前ら、ホントに人望ねぇなw」

イアンが豚野郎に笑いかける。本当に大事にされているならばこんなこと言われない、私財投げ打って助ける人が出てくるだろう。なお、SPがトンズラ成功したというデマ無線出してることはコイツらには知らせてない。世間は誰も豚野郎を大事になど思ってなかったと絶望させるのが目的だ。


続いて中堅、内務大臣のハイエナの出番だ。同じく第五列のSPから無事保護したという嘘無線報告済みだ。


「た、頼む。金ならいくらでも出す、自分の口座から。またいつでも住民から徴収出来る!頼む出してくれ!代理人のうちの妻と対話させてくれ!」


こいつも天然だなw。言ってて恥ずかしくないんかね?何より、口座に本人確認なしでアクセスできる人間が居たなら、出しても身代金に使う道理なんかないじゃん。こいつの場合はむしろ生存してない情報ながしたほうがよかったかな。そのままドロンするに決まってる。そしてハイエナ氏の嫁さんが無線の先にやってきた。


「口座を委任する?」


「するする、頼む出してくれ!」


「今口座から全額抜いてきたわ。そのまま殺されてしまえ。」


破れ鍋に綴じ蓋……。しかしこれでハイエナ氏には生涯に渡る女性不信が焼き付いたやろなw


さて次は副将、狸ジジイ

「身代金出して解放してくれ!どうせ印刷すればいい簡単だろ!」


おいおい、通貨の神秘性を一言でちゃぶ台返ししやがったぞこいつw木の葉をお金にして人の大事な物奪い取ってきたのを自白したのも同然。ラジオは相変わらず強硬派が自信満々に払うなと言ってる。


「コメンテーターども、覚えてろよ!未来永劫呪ってやる!」


 おっと、さすがは副将、録音テープ説を覆した。ラジオへの反応は事前に用意できない。これはライブであることを暗示する。

さて、大将、メガネザル四世王子殿下(笑)だ。


「偽情報流されてる!僕らはみんなまだ機内に囚われ、銃を突きつけられている!僕の私財投げ打ってもいいから解放してくれ!」


この一言でラジオの論調が入れ替わり、コメンテーターも数名入れ替わって、身代金支払うことを薦める論調になり、「人命は地球より重い」とか言い出したよw。コレだよコレ。前提で言うことが180度変わるの。前回みたいに初めから宗主国VIPが人質だと政府が人命尊重という考えで一貫性のある組織だと思わせてしまう。実際は相手によって全然違う顔する都合の良いヤツなんだからそれを見せつけなくちゃ。

それはそれとして、はじめの強硬派コメンテーターたち、どうなっちゃうんだろうな?王子を危険にさらした罪で二度と表舞台には出てこれないだろう。


 こうして身代金を獲得し、迷宮最寄りの空港に高跳びした。


 今回のハイジャック機内でのアンケートで今回新たに仲間に加わったのは、草加次郎と名乗る少年Sとキツネ目の男だ。このメンツで迷宮に入る。


 

 

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