第10話 シトラス革命

 選挙の集計があてにならないので、イアン、ロサらは現地協力者とともに、副集計所を開設する。

 匿名投票の原則は飽く迄も本人の権利にすぎないので、本人自ら公開で投票を行う事を禁ずるものではない。そんな、誰に投票したかを公言してくれる人の連絡先を取りまとめる仕掛けだ。これで投票結果をいたずらできる範囲が制限されるというものだw

少なくとも自分が投票した筈の候補が0票だったという声がよく聞かれるようになったが、検証されてない集計値というのは言ったもん勝ちなのである。だから必ずなにがしかの検証をしなくてはならない。


衆目の監視下のもとタヌキじじいの不正選挙は実行できず、ひとたび落ちればただの人。

単なる虚仮威しではあったが作戦は大成功である。


こうしてノラの国にはまさかのバニーを首脳とする社会主義政権が民主主義的な選挙により樹立され、不当に転売された公有財産を政府が接収しだしたとき、騒ぎが起きた。


―――

「この国に民主主義を!」

「社会主義者バニーを追放しろ!」


 見慣れない奴等がデモをしている。そして暴徒が水道、ガス、電話回線、鉄道といったインフラを破壊している。ほぼ同時に全世界に活動家たちの主張が放送される。


「こいつら誰だかわかりますか?」チヒロがクララに聞く。


「この地域の活動家情報は一通り抑えてるけど知りませんわ」クララも知らない。


「なんで接収されたインフラばかり破壊するの?」ノラが聞く。


「まだ接収されてないテーマパーク化されちゃった公園とか、大型ショッピングモールは壊してないわね、わかりやすいw」ロザが結論を出す。


「こう来たら奴等は総力戦で来るわよ…。欧州の軍隊が来るおそれがあるわ。」クララはここらへんの帝国資本主義の挙動には詳しいので、少し泳がすしかないと結論づける。


 複数国の軍隊を向こうに回してゲリラで勝てると考えるほど中二病でもないので、まずはやりたいようにやらして資本主義の矛盾が極大化したところで切り札を出すという作戦でいく。

 で、切り札って何?そんないいものがあるならとっとと使おうよ。こうしている間にも帝国資本主義の尖兵たちによって無辜の市民が殺され生活を破壊されて不衛生な状態に置かれてるんだよ?


「だからこそ、泳がせるのです。帝国主義政策の「民営化」は、民衆にそれで良かったのだと思わせるために、いったんはもとのサービス水準を維持、あるいはより良くします。牙を剥くのは維持を怠って劣化し始める5年後くらいからね。当面の生活の破壊を止めるために公有財産を一旦人質に出すということです。あとで利息つけてきっちり国民に返してもらいますけどね。」

クララは仮にも支配階級だけあって、主眼を国民の生活に置いている。


―――

 クララたちが行動計画を決めたその日に、バニー新政府は倒された。このことを、後に歴史家はシトラス革命と呼ぶ事になる。


―――

この物語はフィクションです。登場する国名、団体名、事件等は現実とはなんの関係もありません。

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