第8話 無限につけあがる亡国政府

 ノラ同志の故郷は獣人集落である。特に差別を受けているとか、奴隷制度があるとかそういうことはなかった。先日の台風によるダム決壊の洪水のあと、列強の救援部隊が入ってくるまでは。


 逃亡するその日まで居たノラ同志によると列強の救援部隊が来て、支援物資と引き換えに借用書を押し付け、あれよあれよといううちに国の中央銀行が乗っ取られ、政府首脳の狸オヤジが中心となり列強の息のかかった銀行に借金のカタとして国民を奴隷として差し出しているという。


 獣にも劣る連中だ。狸オヤジなんて呼んだら狸に失礼だとイアンは憤る。


チヒロが言う。

 「それもこれもきちんと合法なのだ。何かが合法か違法かは政府が決めるものだからな。もし神などというものが居たとしたならばこれを許さないだろう。」


 神とは痛みや苦しみを測る指標に過ぎないと古代の詩人が歌っていたやつだ。明らかにおかしいのにそれを糺すものが居ない。


「なにがなんでもこの政府転覆してやりたくなってきたわ💢」

 クララが怒りに正気を失いつつある。これは危ない。イアンやチヒロと違って彼女には実行力がある。今回は宥めすかして止めたが、読書会メンバーが止めなかったら家臣団を投入して侵略戦争を始めていた可能性があるのだ。その場合クララとて損害は甚大なものになる。


「それは極左冒険主義というものだ。クララ落ち着け。まずは現地人との対話だろ? ノラ同志、現地人で信用できる筋はないか?」ロザがクララを宥め、ノラに情報提供を求める。


「カバさんもゴリラさんもクマさん蜂ちゃんもみんな奴隷として売られていっちゃった。いま居るとしたら、バニー族くらいかな。」


 バニー族というのは、獣人族の一種族で耳がウサギで丸い尻尾が生えている種族だ。バニー族の女性は人間たちにとても人気があり、国境を超えて出稼ぎに出るのが通例となっている。その豊富な資金を背景にバニー族の代表としてバニー・サンダースという先進的な代議士を政府に送り込んでいたのは記憶に新しい。


 ということで、調査のためにバニーガールの居る店にいくことにした。


ーーー


「あら、ノラちゃんおひさ。今日はお客さんいっぱい連れてどうしたの?」


「うん、ちょっとこの国の政府の将来について、相談したくて」


「ごめん、バニーは被災地の炊き出しに行くって2週間は帰ってこないよ。」


 お前もバニーなんじゃねえの?ってイアンが思って怪訝な顔になってたらしく、ノラさんが話を切り替える。


「そうだ、エミリー、紹介するね。左から順にクララ、ロザ、チヒロ、イアンってんだ。」


ここでもチヒロはチヒロ呼ばわりだ。チヒロ可哀想(←お前もな)


「わたしエミリーよ。ここの店を仕切ってるわ。さっき話のあったバニーは常連さんで代議士先生。行政に関するお困り事はバニーにおまかせって毎週金曜夜はココで受け付けてるわ。」


要は、種族名としてのバニーと苗字としてのバニーがあって両者は区別して扱わなくてはならないようだ。バニー族のバニーさん。うんややこしい。

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