第5話 崩れ落ちる預言者の壁

 空港で合流した同志の名はクララといった。ロザとは令嬢時代からの親友だそうだ。クララはまだやんごとなきご身分のようでこれぞ執事でございといった感じの男を引き連れていた。パリッとした衣装に包まれているが見るからに日本人のようだ。

どうお呼びすればよろしいですかとイアンが名前を聞く。

「片岡潜と言います。」

言い切るか否かの絶妙なタイミングでロザが言い慣れたような口調ですかさずにツッコむ。「潜?贅沢な名前だね。戸籍とか住民票にその名前登録してるんじゃないだろね。お前の名前コードネームはチヒロ。いいね、チヒロ!」

どこから湧いて出たんですか?その名前。

チヒロ氏はしょんぼりして、下がった。

「で、チヒロ、おまんとこの近況はどうなってる?」

クララまでチヒロ呼ばわりだ。チヒロ可哀想(←お前もな)。

「わが祖国では戦乱を防ぐ御利益があると言われている預言者の壁がひび割れ、崩れ落ち、死をもたらす器具が陽の光を浴びてます。ゆゆしき事態です。世界の命運は精神異常者スキッツォイドマンたちの手の内にあるように思えるのだが、どうだろうか?」

チヒロ、いや本当の名前なんだっけ?が報告する。

クララとロザはニヤリと笑みを浮かべ、

「ふふふ。やはり、奴等なりふり構わなくなってきたな。自らが仕掛けた蜘蛛の巣に捕らわれし者。チヒロんとこの為政者とやらは、その預言者の壁によって正当性を担保しているのであろう。それを無視した途端に彼らは為政者としての資格を失い政者になる。誰も彼らを守るものはない。そこのところを確かなものにしたおき、挑発して仕掛けさせた侵略戦争を内乱に転化して政府転覆し政治的主導権ヘゲモニーを獲得するのだ。極東拠点開設の目処は立ったな。」クララの大枠での同意を得て、ロザが総括する。

「そして、その日程感を決めておかないと、他拠点との連携を絡めた世界革命の段取りが組めない。向こうが餌に食いついたというのはわかった。あとは、その死を呼ぶ装置の矛先を政者に向けるのにかかる所要時間と段取りだ。引き続き持ち場に潜伏し、革命の段取りのクリティカルパスとなる工程の所要時間を短縮する工作を続けるように」

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