第37話:ラローチャ王国




 side,リバデネイラ国王


蟄居ちっきょしろ、と?」

 王太子に第一王子を指名してから2年を過ぎた頃。突然、パディジャ公爵とオリバレ公爵が王宮へやって来て、宰相を証人として同席させて、儂を王の座から落とすと言い出した。

 そう。落とす、だ。

 儂の影響力を一切残さない為に、飛び地になっている王家の領地で隠居生活をしろと云うのだ。


「あの土地は、今は廃坑になった鉱山の為の町が在った場所で、まともに買い物も出来ない場所ではないか!」

 鉱山が稼働していた頃は店もあったし、宿も食堂もあった。

 人の出入りは殆ど無かったが、物資はそれぞれの店が店内に転送装置を持ち、不自由は無かった。


 しかしそれは過去の栄光で、廃鉱になった現在では住人は誰も居なくなり、転送装置も高い整備代を使ってまで保持しているわけも無く、町は完全に機能停止していた。

 今では盗賊が住み着かないように、時々国から見回りを派遣する程度の土地でしかない。

 そこに国王を辞め、移り住めと言っているのだ。

 王家のお荷物でしかない、あの土地に。



「今の貴方達の為にあるような土地ではないかね?」

 パディジャ公爵が滅多に見せない、とても良い笑顔で儂とを見る。

「し、失礼ね」

 国内の力関係を本当の意味では理解していない妻は、2大公爵家当主を平気で睨み付けた。


 妻は自分が産んだロレンソが、王太子になる事を疑っていなかった。

 儂もが産んだ息子より、ロレンソの方が何倍も、何十倍も可愛かった。

 だからパディジャ公爵家との婚約を決めたのに。


「そもそも婚約破棄の責任は、ロレンソを廃籍にした事で責任を果たしただろうが」

 可愛い息子を王族から外し平民に落とした上に、1年以上賊の慰みものになっていた元男爵令嬢と婚姻させたのだ。

 しかもロレンソが廃籍になった事で、妻は実家の伯爵家から縁を切られている。側妃なのに、だ。


「それにそなたの娘は王太子妃になるのだから、償いは充分だろうが!」

 忌々いまいましい第一王子が王太子に決まり、その婚約者になったくせに何が不満なのか、理解出来ない。


「騎士団団長は、息子がフランシスカに狼藉を働いたので、死ぬまで地下牢に幽閉されるそうですな」

 それがどうした。それを望んだのはそちら側だ。

「あの商会は、完全に潰れて今では見る影も無い。息子が下半身不随になったのは、こちらも驚いたのだがね」

 それもパディジャ公爵家に配慮した結果だろうが。


蝙蝠こうもり伯爵は、いつの間にか居なくなってたけど、その原因は王家からの圧力だろう?」

 なぜかオリバレ公爵までが加勢して、儂ら王家を責める。

「治癒魔法使いの子爵子息は可哀想だったね。前線での不自然な事故だったらしいね?」

 その事件は、王家は何も関与していない。魔法師協会会長が勝手に動いただけだろう。それが判らない公爵家ではないだろうに、何が言いたい?


「子供の不始末は、親の責任と前にも言ったはずだが?」

 パディジャ公爵の顔から、笑みが消えた。

 それは……他の貴族家の話で、王家はそもそも普通の貴族とはわけが違うのだから当て嵌まらないはずだ。

「しょうがないから、結婚式への参加は認めてやろう。その後は戴冠式だな」

 パディジャ公爵の台詞に、オリバレ公爵が頷いた。




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長くなったので、2話にわけます

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