第4話:軽率
「伯爵令息が平民を無礼打ちするような事を、公爵家の
胸を張ったフランシスカは、舞台上のシルビアへと視線を向けていた。
ファビオが「無礼打ちにする」と言った事は、何もファビオが次男・三男にありがちな考え足らずな残念な男だからでは無い。
貴族は下の者の生活を保証する代わりに、平民は貴族を
それは王国法で決まっている。
それは貴族同士にも言える。
同じ高位貴族と括られていても、公爵位と伯爵位でさえ天と地の差があるのだ。公爵位と男爵位など、言わずもがなである。
高位貴族を下位貴族が
フランシスカは、視線をシルビアからロレンソへと移す。
しかし何も言わずに背を向け、自分の席へと戻って行った。
カルリトス・リベロは、伯爵家の嫡男である。
リベロ伯爵家は一応上位貴族ではあるが筆頭には程遠く、序列としては丁度真ん中辺である。
可もなく不可もなく、平均で平凡。
それがリベロ伯爵家とカルリトスへの評価だ。
本人もそれに不満は無く、ロレンソの側近に選ばれたのも「野心が無く、地位もまあまあで数合わせに良い」という、なんとも言えない理由だった。
それなのに、なぜ。
なぜ自分がこんな目に……。
舞台の下でカルリトスは何もせず、ただ立っていた。
ロレンソを止めるでもなく、ファビオやマルティンに加勢するでもなく、ただただ見ていた。
何をすれば良いのか、何をしてはいけないのか、その判断がつかないのだ。
多数決の多い方へと付く。
それがカルリトスの処世術だった。
その為に、今自分がどちらに、いや、誰に付くべきなのかの判断が出来ない。
地位が1番高いのは、王子のはず。だが、講堂内の空気は
どうして良いのか解らず視線を
その背中を眺めながら、こっそりと心の中で安堵の溜め息を
何もしなかった、誰も害していないのだから、自分には何もお咎めは無いだろうと。
カルリトスは考えた。もし平民に婚約者を取られたら……まずは王族であるロレンソに相談するだろう。おそらくロレンソは他の側近達に話すだろうから、そこで皆の意見を聞く。
平民を許し、婚約を継続した方が良いと言われれば、そうするつもりだ。
平民を罰せよ、となれば、それは王族のロレンソか騎士団長子息のファビオに任せれば良い。
婚約者とは婚約破棄になるだろうが、同じ伯爵家だし、相手有責だから自分は痛くも痒くも無い。
想像の中でも、カルリトスは見事な日和見だった。
「……おかしいわね」
シルビア・エスピノサ男爵令嬢は、言いたい事だけ言って自席に帰って行く、悪役令嬢フランシスカの背中を見つめていた。
何も知らない平民上がりの男爵令嬢という立場を利用して、偶然を装い、入学してすぐに第二王子であるロレンソへと近付いた。
不敬にならない程度の親しさで、距離を詰めた。
ロレンソも側近達も心に闇……までは行かないが、コンプレックスを抱えていた。それを明るく、それも含めて貴方なのよ! 大丈夫。私が解っているからね、と解決にもならないアドバイスをして仲を深めた。
ヤラセは一切しない。王族やその婚約者には常に護衛や影が付いていて、嘘を吐いてもすぐにバレてしまう事は知っていたから。
自作自演などしたら、逆に追い詰められる未来しか見えない。
だからシルビアは、本当にされた事しかロレンソに報告しなかった。
悪役令嬢を嵌めようとして、逆に
そういう話は
ここが無料スマホアプリの乙女ゲームの世界だとも、知っていた。
やり込んでいたわけではなく、無料だったのでたまたま遊んだ事があった程度の認識だったが、全然知識が無いよりマシである。
シルビアは、転生者だった。
それなりな男爵家に庶子として引き取られたが、前世の記憶が有るので男爵家でも困らなかった。敬語は話せるし、みっともなく見えない程度には食事マナーも身についていた。
貴族の上下関係がイマイチ理解出来ていないが、公務員や政治家的な関係だと思っていた。
自分達男爵家は、市議会議員。子爵は県議会議員、伯爵位は国会議員。
公爵・侯爵辺りは閣僚みたいなもんで、下にも置かない対応をすれば良いんでしょ? 程度に、軽く考えていた。
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政治家に対する考え方は、シルビアの独断と偏見ですので!
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